日本地理学会発表要旨集
2014年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 401
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発表要旨
千葉県いすみ市における持続可能な漁業への取り組み
*橋爪 孝介
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抄録
1.はじめに<BR>
 本研究は、千葉県いすみ市における資源管理と高付加価値化の取り組みを通して、持続可能な漁業をどのように推進しているのかを明らかにすることを目的とする。持続可能な漁業への関心は水産資源需要の増大を背景として世界的に高まっており、日本でも各地で取り組みが行われている。日本の漁業経営体数は1960年代以降一貫して減少し、漁業生産量は1990年代以降減少している。これに伴い輸入量は増加するが、水産物需要の後退により、2001年を境に減少に転じている。以上から、水産資源の維持と収益性の確保が日本の漁業の持続可能性を考える上で重要である。特に高級魚種の場合、漁獲高や景気変動の影響を受けやすいため、持続可能な漁業への取り組みは重要であり、イセエビを主体とする高級魚種生産地域である千葉県いすみ市を事例地域として選定した。<BR>
2.いすみ市における資源管理の取り組み<BR>
 いすみ市は江戸時代にイワシを主とする漁業地域として成立し、明治時代にアワビの好漁場が発見されて以降、高級魚種を主体とする漁業地域へ変化した。戦後、乱獲によりアワビの資源量が大幅に減少し、藻類やタコ、イセエビに漁獲対象が移っていく。イセエビが主要な漁獲対象として認識され始めるのは1970年代からであり、1976年頃には資源管理に向けて、標識を付けたイセエビの放流と再捕獲、県の捕獲規定に満たない大きさのイセエビ(以下「小エビ」とする)の放流事業を開始した。小エビ放流事業は漁業者自らの発案により、小エビを各漁業者から集め、禁漁区へ放流することから始まった。実際に運用すると、小エビの自家消費が行われ十分に小エビが集まらず、禁漁区への放流による資源分布の不均衡が生じた。これらの問題を解決するため、小エビの買い取り制度の導入と放流場所の自由化が行われた。<BR>
3.いすみ市における高付加価値化の取り組み<BR>
 いすみ市では漁協による直売活動とイセエビの地域ブランド化という2つの高付加価値化の取り組みを並行して行っている。まず、漁協青年部や女性部の自主的な活動として始まったイベントでの直売経験を下に、漁協直営の常設直売所「いさばや」を設置した。次にいすみ市で水揚げされたイセエビを「伊勢海美」の名で地域団体商標登録を行い、付加価値を高めた。更に千葉県全体のイセエビのブランド力向上を目指し、隣接する漁協と連携して「外房イセエビ」の名で千葉ブランド水産物の認定を受けた。これらの取り組みは直接的な収益性の向上には未だ結びついていないものの、漁協の信頼性を担保とした固定客の獲得や、少量低価格の魚種の買い支えなどの一定の効果を認めることができる。<BR>
4.おわりに<BR>
 いすみ市では資源管理により水産資源の持続性を確保しつつ、高付加価値化により収益性を高めようとしている。これらの取り組みは漁業者の自主的な活動として始まり、最終的に漁協の事業に移管するという形態をとっている。これにより、漁業者が積極的に制度作りに参加し、現実に即した制度変更が可能となっている。また取り組みを漁協へ移管することにより、取り組みの継続性も実現されている。一連の取り組みによって持続可能な漁業を続けていくためには、漁業者が常に持続可能な漁業を模索し、新しい取り組みを起こし続ける必要がある。
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© 2014 公益社団法人 日本地理学会
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