抄録
1.はじめに
発展途上国の農村開発には主体となる生産者や生産者組織に加えて、農業普及員や村落開発普及員など行政のアクター、投入財を売り産品を買いつける商人、そして開発資源を提供する各国の政府開発援助機関やNGOなど多様なアクターが関わっている。南部アフリカ・マラウイにおいては地方分権化の進展によって農村開発に関わるアクターが再編され、同時に開発資源を提供するアクターと生産者のかかわり方も変容している。本研究では発展途上国の農村空間において開発資源へのアクセスをめぐり様々なスケールのアクターが構築する開発の領域に注目している。特にアクターがネットワーク構築によって資源へのアクセスを確保し生産地域を拡大する過程に注目し、開発に関与する側のアクターの描く「開発されるべき領域」と実際に生産者組織によって「開発される領域」に生じる相違を、アクターネットワークによる開発の領域化を通して説明することを目的としている。
2.研究対象
マラウイの農村においてはプランテーション農業をモデルとするエステート農業が独立後も長らく政策の中心にあった。一方の就労人口的に圧倒的多数を占める小農については組織化による組合形成を政策の中心においてきた。特に2003年よりマラウイ農村各地では日本の援助を得て農業組合政策と地方分権化政策を包摂した地域振興プログラムとして一村一品運動(OVOP)が展開している。OVOPについては開発資源が政治的に利用されること、省庁間や地方行政による開発資源の主導権争いによってプログラムの趣旨が変容すること、地域社会運動の一部にすぎない産 品開発が主目的と変わり、概念の移転の難しさが指摘されてきた。その一方でプログラム自体は農村開発に導入後10年が過ぎ、中には参加者生産規模も拡大し地域に定着している組織もうまれている。
3.研究方法
本研究ではプログラムに参加している組合法人を対象に面談調査を実施し、組合組織の形成や参加の意思決定、資源へのアクセス、参加後の意思決定変容におけるネットワーク形成とその変化の領域的意味を明らかにする。特に参加者の拡大縮小、生産の変容の中でのリーダーシップや、イニシアチブの形成、グループからの分離、離脱、融合によって参加する生産者のネットワークがどのような変化を遂げてきたか調査した。具体的には3組合(K籐竹工芸組合、N醸造組合、M農商組合)について原料買付の範囲や、販売促進の空間拡大、技術導入とその普及などを通して地域内外に展開した「開発される空間」を、生産者や周辺アクターを含めてデータ収集しその領域変容を検討した。あわせて周辺の生産者や、類似の活動、周辺での政府や開発援助機関の関与、普及員などとの関係がこの領域化形成に与える影響を検討した。
4.調査結果
開発に関与する側の影響力の強い組合はネットワークがシンプルで、かつ開発資源へのアクセスも容易で想定される開発の領域に近い領域が開発されるのだが活動の展開が弱く、一方地域の有力生産者の組合はネットワークの展開が多角的で開発の領域は可変的かつ想定されたものとは異なっているが活動は継続的で地域との強い関わりが確認された。