日本地理学会発表要旨集
2014年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 627
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発表要旨
微地形分布から考察する砂嘴の形成プロセス
タイ王国パカラン岬における2004年インド洋大津波後の事例
*小岩 直人大高 明史葛西 未央伊藤 晶文
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抄録
Ⅰ. はじめに2004年インド洋大津波、2011年東北地方太平洋沖地震津波では、津波で侵食された海岸部の地形が、比較的短期間で回復する事例が報告されている。これらの回復過程を検討することは、地形形成プロセスを解明する上で貴重な資料になることは明らかである。発表者らは、タイ南西部Khao Lak周辺において、2004年のインド洋大津波時に消失した海浜地形の再生過程について、2006年以降に継続的な調査を実施している。調査地域では津波時に消失した砂嘴が再生されつつあるが、砂嘴はサンゴ礫を主体としており、堆積時の微地形が保存されていることから、初期状態からの砂嘴の発達過程を微地形の変化から詳細に検討することが可能である。Ⅱ. 調査地域および調査方法調査地域周辺は、高さは7m以上の津波が襲来し、Pakarang岬から北北西に砂嘴が伸びていた砂嘴(先端部)が侵食されている。2006年11月~2013年11月に計9回実施した。津波後の現地調査(GPS、オートレベル、TruPulse)による測量を現地調査では砂嘴の外縁、砂嘴上の微地形の分布、高度を把握し、データをGIS上で重ね合わせることにより、津波襲来時以降の地形変化を明らかにするとともに、植生の遷移についても検討を行った。 GPS測量は、GarminのGPSの他に、マゼラン社製のProMark3を用いたキネマティク測量を実施した。キネマッティック測量では、基準局と移動局の2台の受信機ユニットを使用し、測位インターバルを1~2秒に設定、移動局はアンテナ高2.11mとしてポールの下先端が地表面にほぼ接するように保持しながら移動した。測定誤差は垂直で数㎝程度である。Ⅲ. 調査結果調査地域の砂嘴は、中~粗粒砂からなる砂層の上に中礫~大礫サイズのサンゴ礫が被覆するという構造となっている。砂嘴の下部はサンゴ礫からなるウォッシュオーバーファンが発達している。また、サンゴ礫からなる細長いリッジ(幅数m、長さ約10~200m:以後リッジとする)が数列形成されている。リッジは、砂嘴の骨格をなしているウォッシュオーバーファンを被覆して発達している。砂嘴上の砂礫は、藻類が付着しており、陸上に打ち上げられて時間が経過すると黒みを帯び、その色調は古い部分ほど黒色の度合いを増す。これを利用して微地形の新旧の区別が可能である。さらに、調査地域ではリッジの切り合い関係が読み取ることができ、地形の発達方向が検討できる。  これらをもとにPakarang岬の砂嘴の発達過程を検討した結果は以下のようにまとめられる。 初期の段階では海底の浅い凸部を基にしてサンゴ礫からなるウォッシュオーバーファンが堆積する。その上に大潮時の海岸線を示すリッジが形成され、海側へ前進しながら複数のリッジ列をなす。これらが繰り返して砂嘴が成長する。リッジ形成後、リッジの低い部分から細粒堆積物のウォッシュオーバーがみられ、砂嘴上の凹凸を減少させ、厚みのある砂嘴が形成される。標高が高くなると、ウォッシュオーバーが生じにくくなり、地表面は安定し植生が進入する。植生の侵入は2010年頃から顕著になってきており、初期の段階では、ヒルガオのグンバイヒルガオが砂嘴の表面に分布する。このほか、モモタマナ(シクンシ科)、ヤエヤマオキ(アカネ科)、モクマオウ(モクマオウ科)などが侵入するが、これらと微地形との関係は発表時に述べる予定である。
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