理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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一般演題 口述
機能障害残存中における早期歩容指導の可能性について
─heel off出現に下腿三頭筋の機能回復は必須か?─
岡村 和典廣瀬 伸児村井 みどり江川 晃平
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p. Ca0275

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抄録
【はじめに、目的】 下腿および足関節周囲の外傷において、足関節背屈可動域制限と下腿三頭筋(以下GS)の筋力低下は頻発する。先行研究において、Kirsten(2003)はGSの筋力低下はno heel offの原因になると述べているが、これは足関節の背屈制限が無い仮定である。またPerry(1992)は、立脚終期(以下TSt)における重要な課題は、足関節を安定させ、中足趾節関節を支点とした前方への転がりを可能にすることにあると報告している。これらを踏まえると、TStでheel offが生じるためのGSの働きは、足関節の剛性を保つことにあると考えられる。しかし、足関節背屈制限とGSの筋力低下が組み合わさった症例では、このGSの働きを背屈制限によって代償できる可能性があるにもかかわらず、このような場合の歩容に関する報告は見当たらない。また上記外傷では、これらの機能障害に対するアプローチが理学療法の中核をなすが、臨床的には機能障害が改善された後も跛行が残存し、その治療に難渋する症例も多い。そのような症例は、機能障害が改善するまでの間に跛行を学習している可能性があるが、機能障害が残存している段階から跛行の予防および歩容指導を行おうとした報告は少ない。本研究の目的は、健常成人において足関節背屈制限とGSの筋力低下の組み合わせを再現し、その歩行を分析することで、機能障害残存中における早期歩容指導の可能性を探ることである。【方法】 対象は健常成人9名(27.67±6.12歳)とし、左側に金属支柱付き短下肢装具(ダブルクレンザック継手)を装着した状態での歩行を分析した。試行はクレンザック継手を底背屈0°固定およびFreeに設定した2条件で行い、対象は各条件下で10m歩行路を3回ずつ歩行した。分析にはアニマ社製シート式下肢荷重計ウォークWayと家庭用ビデオカメラを用い、サンプリング周波数はどちらも100Hzとした。全ての試行において、2名の検者がウォークWayとビデオカメラよりTStでのheel offの有無を確認した。また、ウォークWayにて計測した各試行における右側step長、左側立脚時間、歩行スピードを対象別にそれぞれ平均し、対応のあるt検定にて条件間の有意差を求めた。また予備実験として、山崎ら(2006)の方法を参考にトレッドミル上で二次元の歩行分析を実施し、上記2条件における最大膝関節伸展角度を対応のあるt検定にて比較した。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究はヘルシンキ宣言に沿って実施した。対象には事前に口頭および文書にて本研究の主旨を説明し、同意を得た後、実験を行った。【結果】 全ての対象、試行においてTStでのheel offが確認された。右側step長は0°固定群71.78±4.63cm、Free群75.20±5.76cm、歩行スピードは0°固定群131.11±11.67cm/sec、Free群138.75±18.28cm/secと、どちらも0°固定群において有意な減少(P<0.05)を認めた。左側立脚時間については条件間に有意差は認められなかった。一方、トレッドミル上での歩行分析からは、背屈制限によって立脚期の最大膝関節伸展角度に有意な変化は認められなかった。【考察】 0°固定群においてもTStでのheel offが確認されたことにより、GSの筋力低下をきたしていても、足関節の背屈制限によってTStでのheel offが出現する可能性が示唆された。また、背屈制限が生じているにも関わらずheel offが認められない場合、前足部荷重に伴う痛みや学習性の跛行など、GSの筋力低下以外の問題にも目を当てる必要があると考える。さらに0°固定群において右側step長、歩行スピードが減少したことは、ankle rockerの機能低下に起因すると考えられるが、それでもなおheel offが出現したことから、ankle rockerの機能低下が直接的にforefoot rockerに及ぼす影響は少ないものと思われる。また予備実験の結果から、足関節の背屈制限をきたしていても、膝関節の機能に問題がなければ反張膝を呈することなく歩行可能であると予測されるが、今後より精度の高い実験が必要である。以上のことから、GSの筋力が不十分な段階においても、足関節および装具等の背屈制限を利用することで、heel offを出現させたより正常に近い歩容での歩行練習が可能であると考える。【理学療法学研究としての意義】 本研究の結果は、足関節機能障害を呈した症例における跛行学習の予防、および早期歩容指導の可能性を示唆する基礎研究として意義がある。
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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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