抄録
函館平野東部には,これまで確認されていなかった左横ずれ成分の卓越する断層が存在する可能性がある.これは,現時点では推定活断層の域を脱していないものの,その地形学的根拠となる,中期更新世の海成段丘面を刻む複数の河谷の系統的横ずれに代表される,幾つかの変位地形の詳細は既に報告した(吉田ほか 2015;Yoshida et al. 2015).本報告では,この一連の調査の過程で発見された断層露頭の観察結果を示す.
露頭はN41 50 17,E140 46 48に位置する.推定活断層は,変位地形の線的分布によると20 kmの長さを持つ可能性があり,露頭位置はその北西端に近い.MIS9の高海水準期に形成されたとみられる海成段丘面を刻む谷の南東側段丘崖基部が露出し,谷底と段丘面との比高は30 mほどであるが、おそらくは氷期中の周氷河作用による段丘崖の従順化のため,急崖となっているのは下半部の約20 mである.調査地点周辺の地質は中新世の(硬質)頁岩,凝灰岩,砂岩からなる汐泊川層である.露頭ではこの凝灰質砂岩が一面に露出する.なお,段丘堆積物は確認されない.主断層面はほぼ垂直(走向N33−35W,傾斜>80S)であり,地下水の湧出が著しい.幅10 cm程度の断層ガウジ(A)が形成されており,その内部には数mm~1.5 cm厚の青灰色粘土が断層面に沿って発達している.観察範囲の上部では,A部は上流側に分岐している.露頭は全体として断層破砕帯としての特徴を持つと解されるが,詳細には主断層面の両側では岩相が次のように異なる.
主断層(A)を挟んで下流側には,岩相にほとんど変化のない部分(D)が露出する.D部では、後述のB,Cの各部と比較して,節理間隔が10~20 cmと大きく,節理のマトリクスによる充填はみられない.また,D部内で粘土化が進んでいる箇所も認められない.これに対して,主断層の上流側にも汐泊川層(凝灰質砂岩)が露出するものの,ここでは岩相の変化が激しく,変質が著しい部分もみられる.B部とC部(サブユニットに分かれる)との境界には層厚1~1.5 cmの細礫混じりの粘土が発達し,B部は破砕の程度が著しい径1~3 cmの断層角礫である。C部のうち,主断層により近いC1部において,恒常的な地下水流の影響と思われる鱗状の節理模様が露出面に発達し,変色,軟化が進んでいる.このように,上流側各部はD部と比べて節理間隔が明らかに小さく,破砕がより進行していることをうかがわせる.なお,この断層露頭の両側ではともに,段丘崖上部に滑落崖をもつ小規模な斜面崩壊による崖錐が形成されており,破砕帯の幅がどれほどなのかは特定できなかった.
変位地形が示唆する断層運動のセンスは左横ずれであり,主断層面の傾斜がほぼ垂直であることはこれと矛盾しない.また,主断層面の走向も変位地形の配列が示す推定断層位置と調和的である.さらに,上下(C部)との境界にいずれも粘土を生成させるB部は,主断層(A)から上流側に派生した,シート状に発達した剪断面の一部ともみなされ,破砕帯の主部が断層面よりも上流側であることを示す.
〔文献〕吉田ほか(2015)日本地理学会講演要旨集,87,122.;Yoshida et al.(2015) INQUA Congress 2015, T19-P05.
〔謝辞〕大縮尺図の入手・利用に際し,函館市役所都市建設部の助力を得た.明大人文科学研究所個人研究費(2014−2015年度)を使用した.