日本地理学会発表要旨集
2015年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: 202
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発表要旨
新駅開業に対する利用者と市民の評価
*土`谷 敏治
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抄録
Ⅰ.はじめに
  第三セクターひたちなか海浜鉄道は,設立に当たってひたちなか市が湊線の存続や公共交通の必要性について,市民に対して積極的な広報活動を行った結果,同線の存続と行政による財政援助について,市民全体の支持がえらた.設立後同社は積極的な営業施策を実施し,利用者数を順調に伸ばしてきたが,東日本大震災によって,約4か月半にわたる運休を余儀なくされた.しかし,ひたちなか市の援助のもとに,早期の鉄道復旧決断とその表明によって,運休による利用者の逸走を最低限に抑え,復旧後は順調に利用者を回復してきた.
このような状況を受けて,ひたちなか市が主導して2014年10月1日に,「高田の鉄橋」駅が開業した.新駅の開業に関しては,都市計画や土地利用の視点からの議論は行われてきたが,利用者や周辺居住者の移動行動の変化や新駅に対する評価の検討は,必ずしも十分行われてきたとはいえない.本発表はひたちなか海浜鉄道の「高田の鉄橋」駅について,実際の同駅利用者と同駅周辺居住者の同駅利用状況,同駅開業による日常の移動行動の変化,同駅とひたちなか市の公共交通政策に対する評価について検討することを目的とする. 

Ⅱ.調査方法
高田の鉄橋駅の開業が10月1日であり,10月・11月の開業当初は,各種メディアの報道の影響を受けた利用や鉄道愛好者の利用,収集目的の乗車券購入など,開業ブームを反映した需要が想定される.年末・年始も特有の利用が想定される.また,利用者のかなりの部分を占めると考えられる高校生について,卒業年度生の2月・3月利用は減少する可能性が高い.これらの影響を考慮して,同駅利用者の調査は1月末,2015年1月29日(木)に実施した.
高田の鉄橋駅の実際の利用者を対象に,同駅乗車客,降車客に対して調査票を配布し,利用者自身による記入を求めた.主な調査項目は,乗車区間,利用目的,高田の鉄橋駅開業まで同じ移動目的で使用していた交通手段,同駅の利用頻度,同駅までの交通手段,同駅の評価と感想,回答者の諸属性である.
高田の鉄橋駅周辺居住者については,隣接する那珂湊・中根の両駅より,高田の鉄橋駅が近いと考えられる住宅地を対象地域とした.これらの地区の1000世帯に調査票を配布し,各世帯単位で日常の移動行動における主な交通手段についての回答を求め,郵送によって回収した.主な調査項目は,高田の鉄橋駅開業の情報入手手段,通勤,通学,など移動目的別の移動手段,湊線列車利用の頻度・利用駅,高田の鉄橋駅に対する感想,湊線存続の可否,公共交通全般に対する財政支援の可否,回答世帯の諸属性である. 

Ⅲ.調査結果の概要
高田の鉄橋駅利用者は事前の予想よりも多く,予想利用者数のほぼ2倍程度であると推定される.利用者の約3/4は,通学者・通勤者で,駅周辺の町字居住者である.乗車区間は,勝田までが約90%で,その多くはJR常磐線に乗り継ぎ,同線の水戸や佐和まで利用している.
同駅周辺居住者の日常の移動行動は,自動車への依存が極めて高いが,通学者,通勤者には湊線の日常的利用者が存在する.その他の利用目的では湊線利用者は限られるが,余暇目的では湊線利用者,利用経験者が半数近くに達する.これらの非日常的な利用者は潜在的な利用者と考えられ,その利用頻度は低いが,余暇利用を中心に利用する可能性が高い居住者が相当数存在する.列車本数の増加には限界があるが,ラウンドダイヤの導入等によって利便性を高め,これら潜在的利用者の取り込みを図ることも重要な課題である.
高田の鉄橋駅開業については,利用者の評価はもちろん高いが,周辺居住者についても,肯定的な評価が約60%を占めて一応の支持が得られている.ただし,駅に近接する地区と,駅から距離がある地区の評価の差がみられ,駅西側地区の評価が低い.このような傾向は自由記述欄にもみられ,駅の立地が事前の情報よりも東よりあったこと,線路脇の通路が通行禁止となり,西側地区からは県道を迂回しなければならなくなったこと,同地区内にはコミュニティバスが乗り入れていないことなどへの不満が表れている.柳が丘方面から高田の鉄橋駅へのアクセス道路,同駅周辺の道路,駐車場・駐輪場,街灯などの整備を求める意見が多い.
ひたちなか海浜鉄道の存続については,若干の地区間差がみられるものの高い支持が得られ,高田の鉄橋駅周辺の居住者にとって,利用者,非利用者を問わず,同鉄道は必要な交通手段として位置づけられている.また,同鉄道,スマイルあおぞらバスをはじめとする公共交通機関への財政支援についても,肯定的な回答が80%以上である.とくに,現状維持とする回答と,より積極的な支援を求める回答がほぼ同数で,後者の回答が上回る地区もみられ,今後の公共交通政策への期待が窺われる.
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© 2015 公益社団法人 日本地理学会
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