日本地理学会発表要旨集
2015年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: 203
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発表要旨
公共交通分野に対する市民の主体的な参画とその背景
―交通地理学からのアプローチ―
*今井 理雄
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抄録
交通あるいは移動という日常的に生じる現象のなかで,日本における公共交通の位置付けは,ゆっくりと大きな転換点にある.現在に続く公共交通ネットワークの礎は,その大部分が高度経済成長期頃までに形成・計画されたものであり,それが徐々に整理,縮小され,再編されているといえる.大量輸送に基づく採算性を与えられた公共交通は,少子高齢化に代表される社会構造の変化に伴って,その意義を変えつつある.大都市圏などの一部をのぞけば,地域交通としての公共交通の存立基盤はすでに崩壊しかけており,さらに運輸部門の規制緩和によって存立構造が変化しており,独立採算の営利事業として,多くを民営事業者に依存してきた日本における従来のシステムは,もはや限界に達している.
この“独立採算での民営事業者に依存した公共交通”というシステムは,営利事業としての採算性を追求できるという面で,非効率を削減する可能性がある.一方,公共交通を取り巻くステークホルダーの一端を担う“市民=利用者”が,その運営や方向性に係る議論に,主体的に関わることが少ない弊害もみられる.とくに近年,地域の公共交通の大部分が,財政的な支援なしでは成り立たなくなっているなかで,公共交通事業者の破綻,公募社長を中心とした第3セクター事業者の変容,行政運営における市民参加の促進など,いくつかの背景をもとに,その維持,活性化に向けた新たな動きが散見されるようになった.
本研究では,二つの例にもとづき,公共交通の分野において,市民が主体的な関与,参画を試みた背景を分析し,維持,活性化のために,交通地理学として提言できることを検討する.
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© 2015 公益社団法人 日本地理学会
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