日本地理学会発表要旨集
2015年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: 604
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発表要旨
航空写真のSfM-MVS解析による詳細DSM作成とその精度
*石黒 聡士山野 博哉小熊 宏之
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抄録
1.  はじめに
航空写真判読、航空写真測量は、地形の把握・計測のオーソドックスな手法である。広域の地形を把握・計測することは、その場所の地形発達や土地利用の変遷を知るうえで必要不可欠である。近年では航空機LiDARによる詳細DEMの整備と公開が進み、手軽に現在の地形を観察する環境が整ってきた。一方、地形改変等により現在は消失した過去の地形を計測するためには、古い航空写真を用いた写真測量を行う必要がある。
近年急速に普及が進んでいるSfM−MVS(Structure from Motion – Multi-view stereo)ソフトウエアは対象物(地域)を撮影した複数の写真とGCP(Ground Control Pont)をインポートすることにより、簡易な操作でDSM(Digital Surface Model)を作成できる。航空写真も解析が可能であるため、広範囲のDSMを通常の写真測量と比較して容易に作成することが可能である。しかし、それにより作成されたDSMの詳細な精度検証は行われていない。本研究は、複数の時期に撮影された航空写真を高解像度にスキャンした画像を用いてSfM−MVSソフトウエアによりDSMを作成する。これらを現地水準測量による結果と比較して、古い航空写真から作成されるDSMを用いた標高計測精度を検証する。
2.  DSMの作成と精度検証の方法
本研究の対象地域は沖縄県久米島とする。久米島は戦後の農地改良により、地形と土地利用が大きく変化してきており、その時期を含む1962年、1973年、1977年、1984年、1990年、1994年、2002年、2013年の各年に撮影された航空写真が存在する。多様な土地利用と地形が混在しており、DSMの作成精度の検証のために好適である。
最新の2013年の航空写真は地上解像度約20cmのデジタル航空写真である。それ以外の航空写真は20μmピッチでスキャンした。DSM作成と精度検証の手順は次の通りである。なお、SfM−MVSソフトウエアとして、Agisoft社のPhotoScanPro(Ver. 1.1.2)を使用した。
1)    2013年のデジタル航空写真と現地GNSS測量によって得られたGCPを用いて、細心の注意を払って2013年のDSMを作成する。
2)   2013年のDSMの標高計測精度を検証する。真値は現地水準測量により得られた230地点の標高値を使用する。水準測量は古い写真によるDSMの精度も検証するために、昔から変化のない道路沿いで実施した。
3)   1962年の写真中に2013年まで変化のない地物を抽出して2013年のDSMから3次元座標を計測する。これらを古い航空写真を標定するためのGCPとする。
4)   1962年の航空写真から順次標定し、各年代のDSMを作成する。
5)   各年代のDSMの標高計測精度を検証する。各年代のDSMを用いてオルソ画像を作成し、水準測量地点におけるDSMの標高値と水準測量結果を比較する。標高計測精度の検証が目的であるので、樹木や建物で覆われて見えないところは検証点から除外する。
3.  DSM作成結果と精度検証結果
2013年のDSMは解像度48.2 cmで作成され、サトウキビ畑の畦、サトウキビの草丈の違いを判別できる程度に詳細であった。水準測量地点230地点のうち、2013年のオルソ画像中に確認できる171地点における標高の検証によって、このDSMの標高のRMSEは24.1cm、誤差の平均が9.2 cmであることが確認された。この計測精度は、従来の航空写真測量の標高計測精度に匹敵する。
その他の古い航空写真を用いて作成されたDSMの解像度は、写真の解像度に応じて40.4cmから142.0 cmであり、標高のRMSEは24.8 cmから121.5 cmであった。
4.  まとめ
本研究では、既存の航空写真をSfM−MVSソフトウエアで解析することにより作成されるDSMを用いた標高計測の精度検証を行った。その結果、現在の主流であるデジタル航空写真画像とGNSS測量によるGCPを用いることにより、誤差1画素程度の高精度で標高を計測可能であることが明らかとなった。また、本研究の手法によれば、精密な緒元が明らかでない昔の航空写真を用いても、1m内外の精度で標高計測が可能であることが示唆された。
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© 2015 公益社団法人 日本地理学会
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