日本地理学会発表要旨集
2015年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: 502
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発表要旨
豊岡市城崎温泉における観光まちづくり
*岩間 絹世
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抄録

城崎温泉は最も人気のある温泉観光地の一つである。冬季のかに王国のほか,デジタル外湯券「ゆめぱ」による7つの外湯めぐり,近年では,色浴衣や日本的な風景で女性客や外国人にも人気の温泉観光地となっている。本研究では,観光地として成立していくまでの過程を踏まえ,近年における城崎温泉の観光事業と宿泊施設,宿泊客の傾向を把握し,観光まちづくりを担っている主要三団体の活動の特色を,地域の人間関係から考察することを目的とする。
  城崎温泉は,兵庫県豊岡市城崎町湯島,同町桃島,同町今津に所在し,中心は湯島にある。古くから湯治場として栄え,特に江戸時代には,湯治場として著名になり,外湯と旅館が整備された。1909年の鉄道開通により,大勢の観光客を受け入れる温泉地へと変貌した。昭和期に勃発した内湯設置をめぐる「内湯騒動」は,全町内を巻き込み,1950年まで続いた。この結果,温泉の集中管理が行われた。暴力団追放運動が1960年代に行われたことで,色町のイメージが払拭され,若者や女性でも安心して歩ける温泉街になった。
  城崎温泉には現在78軒の宿泊施設がある。このうち城崎温泉旅館協同組合に所属するのは72軒である。本研究では,城崎温泉旅館協同組合に所属する宿泊施設に対してアンケート調査を行った。期間は2014年10月から11月までで,回収率は69%である。
  城崎温泉には,部屋数が17室以下の小規模宿泊施設が多い。小中規模宿泊施設は外湯を中心に集積している。外湯の周りには,物産店や飲食店などの商店も集積している。宿泊施設には大きな内湯や売店がないことが多く,外湯や物産店等との「共存共栄」関係が形成されている。一方で,客室数が100室近くある新規参入の大規模宿泊施設は,温泉街の東端と西端に立地している。城崎温泉旅館協同組合は,町外送迎の禁止など小規模宿泊施設を守るための規約を設けている。
  宿泊客の年代は20から40歳代が約7割を占め,さらに女性の宿泊客の方が多いという回答が約4割であった。城崎温泉は,暴力団追放運動によって,若者や女性が気軽に訪れることができる温泉観光地となった。
  城崎温泉では,観光客誘致のための様々な事業を行っている。特に「城崎温泉泊覧会」は,城崎温泉とその周辺地域の持つ資源を生かした事業である。この事業は,城崎温泉旅館経営研究会,豊岡市商工会青年部城崎支部,城崎温泉観光協会青年部(以下,青年部)に所属する40歳代までの男性によって主に企画・運営されている。特に青年部は,他団体を連結する役割を持っている。構成員は他団体と重複する一方で,青年部のみに所属する者もいる。構成員を業種別にみると,宿泊施設が47%,飲食店が19%,土産物店が4%,寺院関係者が4%,酒店が4%,その他(造園業,印刷業)が22%である。異業種の人々が広く関わることで,町ぐるみの活動が可能になった。
  このように,城崎温泉の観光まちづくりは町内に居住する男性が中心になって行われている。これは,城崎温泉の伝統的な祭礼「だんじり祭り」によって強い結びつきが形成されているためと考えられる。だんじり祭りで,男性は3つの部のいずれかに所属する。男子は就学前から部に属し,幼いころから町の人々と関わり合いを持つ。部内には年功序列の「階級」と,同年配間での「連中」が存在する。階級によって異年齢間での交流が生じ,連中によって同年配間の強い結びつきが形成される。当然,幼少期からの人間関係が宿泊施設の経営者や商店主になっても維持され,異業種間での「共存共栄」の精神が育まれてきた。この精神が城崎温泉の繁栄を支えるとの考えを持っている。「部」に所属することで帰属意識が生じ,地域コミュニティーを繋ぎ止める役割も有す。
  城崎温泉の観光まちづくり事業は,壮年期までの男性が企画・運営を行う。彼らは,だんじり祭りの責任者である「執頭」(20~30代の男性が担う)の現役あるいは直近の経験者である。だんじり祭りの運営を「執頭」という壮年期の男性に任せており,観光まちづくりもまた彼らの世代が中心となる。彼らの多くは進学・就職などで一度城崎を離れた経験を有することが,聞き取りから明らかになった。城崎温泉以外の地域で生活し,妻を伴ってUターンやIターンしてきた人々が多い。近年では,他地域から結婚を機に移り住んだ女性が観光まちづくりに参加しつつある。このように,城崎温泉は排他的でなく,他地域の出身者を受け入れる人間関係もあることがわかった。
  だんじり祭りを担う男性集団によって形成されるネットワーク(socio-centric
net-work)と,外部から流入する人々を受け入れる城崎温泉に限定されないネットワーク(ego-centric
net-work)の両面を併せ持つことが,城崎温泉の観光まちづくりを推進する原動力になっていると考えられる。

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