抄録
1980年代半ばまで、パキスタン北部地域コ゛シ゛ャール地区は、小麦や豆類などの穀物の輪作と移牧形態の牧畜で、自給自足生活を維持してきた。ところが、1987年にこの地区を貫通するカラコラム・ハイウエーの開通は、この地区に商品貨幣経済の市場経済化を浸透させ、この結果、これまでの自給自足生活を大きく変化させた。この地区の多くの村では、市場経済に対応する新しい生活のため、小麦や豆類など輪作する農業形態から、貨幣収入を目的とするジャガイモ栽培へと転換した。ところが、2010年1月にアタバード村で大規模な土砂崩落が発生した。大量の土砂はインダス川支流フンザ川を堰き止め、この河川を大規模な堰止湖を変えた。堰止湖の拡大による直接的被害には、一般家屋、商店、銀行、農地、そしてこの間のカラコラム・ハイウエーを水没させた。さらに堰止湖の存在は、農業形態にも大きな影響を与えた。報告では、どのような直接的被害と間接的被害を与えたのかについて明らかにする。