日本地理学会発表要旨集
2015年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: S1301
会議情報

発表要旨
地域格差に関する概念の再検討
*豊田 哲也
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録
日本では高度経済成長期を経て「一億層中流」と呼ばれる平等な社会が実現したと信じられてきたが、1990年代以降は所得格差が拡大していることが明らかになった。その要因として、人口高齢化の影響をはじめ雇用の不安定化や再分配機能の低下などが指摘されている。一方、国土形成の視点からは、東京一極集中と地方経済の疲弊が重大な政策課題となった。このような社会格差と地域格差の関係をどう把握するかは、地理学研究にとって重要なテーマである。格差という概念はきわめて複雑な構造を持っているため、所得分布のように客観的な測定が可能と思われる現象であっても、分析には十分な注意が必要である。ここでは、格差現象を把握する方法について検討を加える。

第一の論点は、「格差が大きな社会(他の社会と比べて)」と「格差が広がる社会(以前に比べて)」の違いである。これはクロスセクション・データ(横断面)とタイムシリーズ・データ(時系列)の関係に対応する。両者は因果関係にあるが、概念としては厳密に区別しなければならない。第二の論点は、「地域内格差」と「地域間格差」の関係である。地域間格差とは「富裕な地域-貧困な地域」として地図上で表現しうる対比であり、地域内格差とは「富裕な層-貧困な層」というヒストグラム上の分布として把握される。地域分析の空間的単位は日本全体、都道府県、市区町村と様々であり、単位可変地区問題と同様かそれ以上に複雑で困難な課題を含んでいる。第三の論点は、「規模の格差」と「水準の格差」の区別が不明確なために生じる格差論争の齟齬である。規模の格差とは、人口や産業が地理的に著しく偏って分布することを問題視する立場であり、水準の格差とは、人口当たりで見た所得分配や生産性に地域間で差があることに注目する立場である。低所得の地方圏から高所得の都市圏へ人口が移動すると、水準の格差を縮小しても規模の格差を拡大する可能性があり、両者はトレードオフの関係にある。
著者関連情報
© 2015 公益社団法人 日本地理学会
前の記事 次の記事
feedback
Top