日本地理学会発表要旨集
2015年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: P006
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発表要旨
UAVによる写真撮影と細密DSMにもとづく2014年長野県北部の地震に伴う地表地震断層の変位量計測
*石黒 聡士
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抄録
1.はじめに
2014年11月22日に長野県北部の地震が発生し(Mj 6.7, 以降,神城断層地震),地表地震断層が出現した(廣内ほか,2014など).地表地震断層は復旧工事などの人工的な要因や降水などの自然現象により,出現後,比較的短時間で姿を変えてしまう.また,長野県北部は降雪の多い地域として知られ,降雪期直前の短期間で地表地震断層の観察が不能となる可能性があった.そこで,本研究では,小型の無人航空機(Unmanned Aerial Vehicle; UAV)2機により空中写真の撮影を行い,Structure-from-Motion - Multi-View-Stereo (SfM-MVS)ソフトウエアを用いて解像度数cmの超高細密の地表モデル(Digital Surface Model; DSM)およびオルソ写真を作成して,短期間で広域的な測量を行った.これをもとに,断面計測を行い,断層に沿った変位量を計測した.
2.写真撮影と地上基準点の計測および地形測量
UAVによる写真撮影は,地震発生1週間後の11月29日と30日に実施した.使用した機材は,いずれもDIJ社のPhantom2とF450であり,搭載したカメラはRICOH社のGRである.シャッタースピードや絞り等を天候に合わせて調節し,インターバル撮影を行った.当初,地表に変位が認められた南北約9.5 kmの全域を撮影予定であったが,時間と天候の制約により,約7割程度のカバー率に留まった.
地上基準点(Ground Control Point; GCP)の測量は地震発生2週間後の12月3日と4日に実施した.ライカ社GCP900を使用し,リアルタイムキネマティック(RTK)測量を行った.測量の結果,119地点の緯度・経度・標高を得た.なお,RTK測量に含まれるオフセット性の誤差は,GCP測量時に四等三角点「二ツ屋」を計測する事により補正した.
本手法による地形計測の妥当性・精度を検証するために,同時並行でオートレベルによる断面測量とトータルステーション(Total Station; TS)による平面測量を実施した.
3.SfM-MVSによる細密DSM作成と変位量計測
SfM-MVSは,対象物を多方向から撮影した写真を用い,イメージマッチングの技術を応用することにより大量の3次元点群データを生成して3Dモデルを作成する技術である.本研究において撮影した写真とGCPを用いてSfM-MVSソフトウエア(Photo Scan Pro)により解析し,解像度約5 cmのDSM(図1)と解像度2.5 cmのオルソ画像を作成した.
作成されたDSMを用いて,地表地震断層沿いに数m間隔で断面計測を行い,鉛直変位量を計測した.変位量は単に崖の比高(見かけの変位量)を計測するのではなく,背後のたわみなどの地形を考慮する必要がある.計測の結果,鉛直変位量は見かけの変位量よりも過小評価される場所と過大評価される場所が確認された.
4.まとめ
作成したDSMにより,以下のことが明らかとなった.(1)DSMの陰影図からは,複雑に屈曲し,かつ分岐する地表地震断層のトレースと,トレース近傍の変形だけでなく,幅数mにわたってブロードに変形する構造が明瞭に示されている.特に,比高10 cm以下の微細な変形は,現地での観察では認識することができないものであり,この手法の優位性を確認できる.(2)オートレベルおよびTSによる断面測量結果とDSMによる断面計測結果とを比較した結果,より微細な高度変化も捉えていることが確認できる.ただし,場所によっては10 cm内外の誤差が生じるようである.(3)本来測るべき変位量は単に崖の比高ではなく,背後のたわみも含める必要があり,DSMを用いることにより,その計測も可能である.単に崖の比高を計測した場合,変位量が過小または過大評価される恐れがある.
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© 2015 公益社団法人 日本地理学会
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