抄録
Ⅰ.はじめに 衛星画像を用いた教師付最尤法分類による斜面崩壊地の抽出の試みは多く行われているが,崩壊地と低平部の土壌が露出する箇所は色調が似ているので誤分類が発生しやすい。そこで,黒木(2014)1)は複数の地理情報を組み合わせた衛星画像を用いてこれを解消し,特に傾斜データを含む情報を組み合わせて最尤法分類すると,現実的な斜面崩壊地の範囲を抽出できることが分かった。本稿では,低平地,斜面地両方を含むような地形条件の地域での最尤法分類結果の分類精度の大幅な向上を目指して,分類に用いる衛星画像を2つの方法を用いてトリミングした。これに複数の地理情報(斜面データおよびデジタル化空中写真)を組み合わせ,複数種(主として斜面崩壊地と河川氾濫)災害範囲を包括的に最尤法分類し,その精度検証を行った。
Ⅱ.研究方法
1.研究対象地域:解析範囲としたのは,2012年九州北部豪雨にて,斜面崩壊と氾濫被害が生じた阿蘇カルデラ内に位置する阿蘇市の沖積低地とカルデラ壁斜面である。
2.使用データとその処理:解析に用いた衛星データは2012年10月8日観測のTHEOS(Tahiland Earth Observation Satellite)である。この画像をふるい分け法(Jorge Alejandro Burtron Guillenほか,2015)2)を用いて衛星画像をトリミングした。この方法を端的に説明すると,ある範囲におけるセルの極値を取り除き(ふるい分けし),画像を単純化する方法である。また,GISを用いて同じような処理(フォーカル統計処理,隣り合うセルの値を合計し平均化する処理)を行い,画像をトリミングした。これらに,デジタル化空中写真(2011年10月9日撮影)と傾斜量図を組み合わせた。土地被覆分類に用いたデータは,未処理THEOS画像,ふるい分け処理THEOS画像,フォーカル統計処理THEOS画像3画像と,これらそれぞれに,空中写真,傾斜,空中写真と傾斜,を組み合わせた計9画像である。これをGIS(ArcView9.2)で最尤法分類した。分類精度検証は最尤法分類に使用したポリゴン形式の教師データと使用していない追加教師データをそれぞれ重ねあわせ,その教師データ内の分類結果面積をGISで抽出することで評価した。
Ⅲ.分類精度 各画像の平均分類精度を表1に,最尤法分類画像の一部を図1に示す。表1を見てみると,THEOS画像をトリミングするほど,追加地理情報を組み合わせるほど精度が向上する傾向が見られる。特に,GISでフォーカル統計処理したTHEOS画像の分類精度は総じて高く,傾斜を組み合わせたものは追加教師内精度90.7%と最も高い。図1を見てみると,傾斜を組み合わせた図1-c,d)ではb)に比べて低地での斜面崩壊誤分類が解消されているように見える。未処理THEOS画像土地被覆分類図の追加教師範囲内精度は13.8%であったが,フォーカル統計されたTHEOS画像に傾斜を組み合わせたものでは97.6%と大幅に誤分類が解消された。よって,急傾斜の斜面崩壊地と緩斜面の沖積低地を包括的に最尤法分類する場合,衛星データとともに,傾斜図を組み合わせると,精度よく斜面崩壊地を抽出できる。次に,図1を見てみると,b)と比べてc,d)は土地被覆分類図というより,土地利用区分図に近い見た目となる。これは,分類前処理により,BAND1~4の反射率の値が地物に応じてほぼ均一化されるためであり,衛星データから目視判読で作成される土地利用区分図がGISにより簡便に自動作成できる新たな手法となる可能性をはらんでいると考えられる。
参考文献:1) 黒木貴一(2014):白川流域の衛星データによる被害地域の区分.平成23年度~平成25年度科学研究費補助金(基盤研究(c)一般)研究成果報告書「都市域における時空間地理情報を用いた氾濫原の特性評価」,p78-88.2) Jorge Alejandro Burtron Guillenほか3名(2015):Region Classification of Geographic Information Systems Images by Sieve Filter and Principal Component Analysis.自然災害研究協議会西部地区部会報・論文集,第39号(印刷中).