抄録
1.はじめに
近年,解像度の高い空中写真(斜め・垂直写真)を容易に取得することができる小型UAV(Unmanned Aerial Vehicle)が登場し,非熟練者でも近接リモートセンシングが実施できるようになった.小型UAVは低空(対地高度150mまで)から撮影できるため,曇天でも対象との間に霧や雲がなければデータを得ることができる.そのため,時間および空間解像度が高い情報を取得することが可能となった.UAVは既に,地図作成(小笠原諸島西之島),災害現場(広島土砂災害,御嶽山降灰調査など),空間線量率計測といった様々な分野で運用されている.
本研究は小型UAVによる高品質な地理空間情報を用いて,詳細な水稲の生育モニタリングを試みた.既往研究では,衛星・航空機を用いた農作物のモニタリング手法が実用化されている.しかし,衛星・航空機の場合は頻繁に生育状況の情報を取得することは難しく,また,天候にも左右されやすい.一方,小型UAVはこれらに比べて,頻繁に情報取得ができる上に運用費用が安価である.このことから,今後その需要性が高まると考えられる.
2.手法
1)対象場所・期間
埼玉県坂戸市の水田(3.2反:36m×88m)を対象に,2014年5月中旬~9月中旬にかけて,週1回の頻度で水稲(コシヒカリ)のモニタリングを実施した.
2)撮影
生育状況の把握のために,可視画像(AW1:Nikon社)と近赤外画像(GoPro3:Woodman Labs社)の空撮を行った.GoPro3に使用されているイメージセンサは,近赤外域にも感度を持っているため,近赤外線透過フィルター(富士フィルム社)を通すことで,簡易型近赤外カメラとして撮影できる.これらのカメラを搭載し,撮影画像の品質保持および操縦者の負担を軽減するため,事前に飛行ルートを設定し,自律飛行を実施した.
撮影した画像は, SfM ソフト(PhotoScan)を用いて,オルソ画像(可視画像,近赤外画像)・DSMを作成した.
3.結果
水稲のNDVIは,移植期~分げつ期で上昇し,その後の幼穂形成期~出穂期はほぼ一定となり,登熟期に入ってから下降した(図1).期間中に飛来したLandsat8も同様の変化を示した.
さらに,圃場を5m×5mのメッシュに区切り,詳細なモニタリングを行った.その結果,一枚の圃場でも生育状況は,場所によって違いが生じることを詳細に観測できた(図2).
4.まとめ
衛星・航空機は,出穂してから10~20日後の撮影データを使用して,お米のおいしさを決めるたんぱく質含有量を農家へ通知している.いわゆる「お米の成績表」となっている.一方,小型UAVはリアルタイムな測定ができるため,生育状況から追肥等の検討や倒伏の予測ができ,迅速な対応が可能である.農業分野においても小型UAVの活用が大いに期待できる.