抄録
フィリピンでは人口の約半分が都市域に集中しており、その背景として農村地域の不安定さ、生産量の不安定さ、それに伴う価格変動などがある。作物の生産量が不安定となっている背景のひとつとしてあげられるのが不安定な水供給である。農業用水を得やすい平野部での農業土地利用は限界に達しており、水の得にくい丘陵地上での農業の安定が必要となってきている。近年、主要農業生産地である中部ルソン地域では灌漑事業が進められている。しかし、ダムとの地理的な位置関係や、溜め池の貯水量が不十分であることなどが原因で、灌漑施設設置後も農業用水を確保できていない地域がある。灌漑施設が十分に機能しないと農業用水を十分に利用できず、作物の生育に影響が出てしまい、貧困につながる一因となりうる。本研究ではその一例となっている丘陵地上にある溜め池灌漑施設において、涵養林として実験的に植えられたマンゴー林を対象として、樹体の生長と地形・土壌との関係を明らかにし、効率的にマンゴーの果実の収穫を行うための解決策を検討した。そのために、水供給の少ない丘陵地においてオーガー掘削と電気探査によって土質を調査した。その結果、乾季に非常に硬く収縮する性質を持つ膨潤性粘土がある場合、膨潤性・収縮性強度が強く、深くまで分布している地点のマンゴーの生長は小さかった。これは栄養を吸収する細根は伸長を妨げられ、また細根が分布する表層付近の土壌水分が少なくなるため、土壌中に栄養があっても吸収できる状態にないことが考えられた。今後、本調査地でマンゴー管理を行う場合は地下から十分な水を獲得できている樹体に対して行うことで、より効率的に収穫を行えるだろう。