日本地理学会発表要旨集
2015年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: P065
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発表要旨
糸魚川世界ジオパークにおける地理学的ストーリーと地質学的ストーリーのコラボレーション
*坂口 豪
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抄録
1.研究背景と目的 ジオパークは地球活動の遺産を主な見どころとする自然の中の公園である。ジオパークでは、対象とする素材の保全・保護を確実にしつつ、教育や観光等に活用し、地域振興につなげる目的がある。ジオパークでは人文社会的な地域資源や動植物を地形や地質、自然環境と結びつけることで構築される大地の物語(ジオストーリー)が必要とされている。先行研究では、ジオストーリーを地質学的なストーリーと地理学的ストーリーに分類し、とくに地理学的視点による地理学的ストーリーを構築する必要性を主張した。しかし具体的に、ジオストーリーの構造を分析して検討した研究は少なく、どのようにジオストーリーを構築していくべきかという方策も議論が不足している。そこで、日本ではじめて世界ジオパークに認定された一つである糸魚川ジオパークにおいて構築されたジオストーリーの構造を分析しつつ、ジオストーリーが地理学的ストーリーと地質学的なストーリーがコラボレーションすることで成立していることを明らかにする。 2.糸魚川ジオパークのジオサイトとジオストーリー 糸魚川世界ジオパークでは24のジオサイトが設定されており、それぞれのジオサイトには複数のジオポイントが選定されているとともに、テーマとジオストーリーが構築されている。24のジオサイトは、ヒスイに関係するジオサイト、糸魚川―静岡構造線とフォッサマグナに関係するジオサイト、山間地のジオサイトの3つに分類されている。ヒスイに関係するジオサイトの一つである小滝川ヒスイ峡はヒスイのふるさとと明星山の大岩壁というテーマのもとに小滝川ヒスイ峡、明星山、ヒスイ峡フィッシングパーク、高浪の池の4つのジオポイントと、小滝炭鉱跡、明星山の生物、土倉沢の化石産地という関連する地域資源が選定されている。ヒスイ峡におけるヒスイの発見は考古学や宝石学へ影響を与え、日本各地の遺跡から出土するヒスイの由来を決定した重要な発見であったという物語がヒスイという鉱物資源と、ヒスイ文化という歴史的な事象を結びつけている。フォッサマグナに関係するジオサイトの月不見の池は地すべり・棚田・石仏めぐりというテーマのもと、地すべりが運んできた巨石の集積地の八十八ヶ所、山口家住宅、月不見の池、日光寺、不動山城址、棚田の6つのジオポイントが選定されている。月不見の池は巨大地すべりの末端部にあり、約300万年前の火山噴出物から構成されている。月不見の池周辺の地質は、フォッサマグナの海底に堆積した固結の弱い泥岩層の上に火山噴出物が乗っている構造であり、山地の隆起に伴って地すべりが発生した。月不見の池ジオサイトでは地すべりが、湧水、農業、信仰などの農村生活に深く関わっているジオストーリーをみることができる。 3.地理学的ストーリーと地質学的ストーリー ジオパークにおけるジオストーリーは「大地と人の物語」のことである。そのため、地質学の知見や情報だけではジオストーリーは構築できない。ジオストーリーを構築するためには人文社会的な地域資源である歴史遺跡や産業遺産、生活に関わる文化財、および動植物などの視点を考慮する必要がある。糸魚川ジオパークの各ジオサイトにおいても、人文社会的な地域資源や生態学的な資源をジオポイントや関連する地域資源に選定することで総合的な視点をもたせており、地理学的な視点による地理学的ストーリーが構築されているといえる。他方、フォッサマグナによる地すべりや火山噴出物などの地形や地質の資源からは地質学的ストーリーが構築されており、各ジオサイトでは地理学的ストーリーと地質学的ストーリーがコラボレーションすることで、ジオストーリーが成り立っている。
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© 2015 公益社団法人 日本地理学会
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