日本地理学会発表要旨集
2015年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 412
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発表要旨
GISを用いた地中熱利用システムの採熱量期待値表示システム
*船引 彩子小熊 正人
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抄録
1.   はじめに 省エネルギー技術のひとつである地中熱利用システムは,比較的浅部(深度100 m程度まで)の地中に賦存している熱エネルギーを冷暖房や融雪等に利用する技術である.一般的には掘削孔(ボアホール)にUチューブと呼ばれる伝熱管を挿入して熱交換器とし,ヒートポンプを用いて採熱量を増大させる.温度変化が気温より小さい地下土壌の熱を地下に埋設した熱交換器を利用して取り出す. 2.   リファレンスマップの提案 地中熱利用システム機器の設計に使用する場合,正確な数値より例えば暖房時の採熱期待値を提供することが有用である.筆者らはこれまで以下の4点に留意して地中熱リファレンスマップを提案した(船引・小熊,2014). 1) 地中温度はその地域の平均気温とする2) 滞水層の充填層としての伝熱促進効果は考慮するが,地下水流動速度は立証が困難なため,流速を0とする3) 評価に必要な地質の熱物性値は既存の熱物性研究データベースから選択する4)熱交換井長さは,地層深さに応じた長さで評価する. 3.   最熱量の表示 本研究では, 福島盆地周辺の一部をモデル地域として、Arc Engineを用いて表示マップを作成した。この地図では導入したい地点のメッシュをクリックするとともに地質柱状図が表示される。更に柱状図をクリックすると、標準パターンでの採熱量が表示される。 採熱量の標準パターンとしては、導入コストと電気料金の最も安くなる運転方法についてシミュレーションで求めた。これらはその地域の温度や環境によって変更することができる。またこのシステムでは、運転期間は3ヶ月~12ヶ月まで変更することができる。 このように一日のうちの採熱パターンや採熱期間を設定することで、従来地中熱利用システムが多く導入されていた公共施設だけではなく、一般家庭などの小需要家にも採熱期待値を示すことができる。1.   地質による採熱量の違い 本システムでは採熱量として、一次元非定常熱伝導方程式で得られた指定した運用期間(月単位)中の平均採熱能力と、運用期間が終わった時点での採熱能力(設計能力と呼ぶ)を比較した。従来熱伝導率の良い帯水層となり、地中熱利用にはメリットが大きいとされていた期待されていた砂礫層は、連続運転中の平均採熱能力は高いが、設計能力は低くなる傾向が見られた。逆に熱伝導率は低いが、比熱や熱容量の大きな粘土などでは、この差が小さくなることがわかった。これらの傾向は運転期間が長くなるほど顕著であり、今後は地質条件を十分に考慮した地中熱利用システムの適切な設計が行われることが求められる。またこのように簡潔に、かつわかりやすく最低値を示すことで、民間での地中熱利用の導入に貢献できることが期待される。
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© 2015 公益社団法人 日本地理学会
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