抄録
1.国際地理オリンピックの概要
国際地理オリンピック(以下、iGeo)は、国際地理学連合(IGU)のタスクフォース(TF)と開催国の実行委員会の主催の下、毎年夏に開催されている。各国の予選を勝ち抜いてきた高校生が「マルチメディア=MMQ」「記述式=WRT」「フィールドワーク=FWT」の3種類のテストに挑み、「知識・概念」「技能」「思考・判断・表現」の多岐に渡る地理的能力を最大限に発揮し、それを深化させていくことに重きを置いている。iGeoの目的は、「地理教育の世界規模での普及・発展」と「地理教育を通じた国際交流の推進」の2点にあり、いわば、地理的能力を競うことのみにとどまらない教育学的配慮に基づいた大会運営がなされているのである。
iGeoは、1996年にオランダのハーグで第1回大会が開催されて以来、2015年8月に開催予定のロシア・トヴェリ大会で12回目を数え、今では世界中の地理教育関係者にとって一大イベントの一つに位置づけられている。日本も2008年のチュニジア・カルタゴでの第7回大会以降、毎回選手をiGeoに派遣している。そして、2013年夏には京都で第10回大会が開催され、日本の地理学・地理教育関係者の多くが大会運営を担った。日本でのiGeoの開催は、日本の地理教育と世界のそれとを比較する絶好の機会となった。
2.本発表の目的
本発表では、iGeoで課せられるMMQ、WRT、FWTの3種類のテスト内容とそれに基づいた地理的能力の特徴を踏まえ上で、今後の高校地理教育の望ましい方向性について、授業実践プランの提案を含めた形で言及していきたい。その際、現行学習指導要領における地理A・地理Bの特徴、次期指導要領を見据えて日本学術会議で現在議論されている新設科目「地理基礎」の方向性、中央教育審議会答申の内容を踏まえながら言及していきたい。
3.国際地理オリンピックで求められる地理的能力の特徴
iGeoで出題されたMMQ、WRT、FWTの3種類のテストの問題内容分析から、そこで求められる地理的能力の特徴について、以下の4点に集約することができる。
①
地図、模式図、統計、写真などの媒体から地理的概念や地理的諸課題を見出す能力。
②
地理的諸事象の観察・記録、地形図の読図、主題図の作図、略地図の描図などの地理的技能。
③
地理的諸事象を地図を用いて空間的に分析・考察・解釈し、対象地域の特性や地理的諸課題を見出す能力。
④
地理的諸課題の空間的スケールや地域性を踏まえた解決策の提案能力と持続可能な地域社会形成(まちづくり)へ向けての政策提言能力。
上述した4つの能力から、iGeoは日本の地理教育において一般的に重視されている知識・理解の程度を問うことよりも、分析・考察・解釈という一連のプロセスを踏まえた問題発見から問題解決、政策提言に至る能力を問うことを重視する傾向にあることが理解できる。とりわけ、地域政策への提言を通じて持続可能な社会形成へ向けての参加・行動能力が重視されていることは注目に値する。なぜなら、参加・行動能力は従来の地理教育ではあまり言及されることがなかったためである。こうした能力の背景には、国際地理学連合・地理教育委員会(IGU-CGE)により1992年に制定された地理教育国際憲章と、それに基づき作成された ”iGeo Guidelines for Tests” をあげることができる。
本発表の詳細については、学会当日に示すこととする。