抄録
地理Aの「自然環境と防災」の単元で、3年生10名で50分間の授業を行った。教科書(二宮書店:「新詳地理A」)が事例として紹介している長崎県島原市(1991年6月の雲仙普賢岳の火山災害)を使い、主に火砕流と土石流の到達範囲およびそれに伴う被害とそこから得られる教訓を地図から読み取らせた。
生徒はまず、対象地の地形図に色を塗り、指示された場所を探して印をつける。その際、手元には、同じ場所のカラー版の地形図(地理院地図)と、GIS標高の凹凸を強調した「スーパー地形」図をタブレットで参照させた。
読み取らせた事象は、噴火口の位置、火砕流および土石流の到達範囲(砂地で表記され、植生がない)、 被災した集落(地名のみで人家がない、災害にちなん だ地名が付与されている)、被災後に設けられた施設(砂防施設、埋め立て地など)である。生徒は教員の指示に合わせてタブレットの地図を切り替え、拡大し、地図に埋め込まれた写真を見るなどしながら地図を塗り、意見を出しながら学習を進めることが出来た。
限られた授業時間の中で読図作業を行わせる上で、報告者はこれまでプロジェクタで地形図の画像や立体鳥瞰図を提示して授業を行って来たが、タブレットコンピューターを用いることで、よりスムーズに読図指導ができ、「地図から読める事柄をもとに考えさせる」ことに集中できた。
2016年から改訂作業が始まる次期学習指導要領(高 等学校では2022年度入学制から実施)では、必修の新科目「地理基礎」が設置される。GISを使った探究型の学習が目玉になっているが、現場でのGISの普及が進んでいない上、地理を専門としない教員が指導にあたる際、内容の質を担保できるか課題になっている。
本報告で作成した教材は汎用性が高い上、フィールドワークや探究学習への応用も期待できる。読図指導に自信のない教員をサポートし、「地図を読み、地域を見る」指導の面白さを浸透させる為の重要なコンテンツとして位置付け、今後も改良と普及を図りたい。