抄録
目的:近年,高温傾向が認められる夏期について,生活行動などと密接な気温分布は多数の研究がなされている.関東地方の気温分布は,夏期に明瞭な海陸風(藤部 1993)や強雨発現(藤部ほか2002;2003)などに関連して示されている.降水に関連し,都心では降水終了後の約2時間で2℃程度の気温低下が認められる一方(長岡・藤原 1941),関東地方は降水を発現させる擾乱の性質や降水強度・頻度も地域的に多様で,降水発現時の気温低下に地域性が現れる可能性が考えられる.しかしながら,気温分布について,晴天以外は都市ヒートアイランドに着目した曇天時が主体で(榊原・三枝 2002),関東地方の降水時/無降水時における気温分布の地域性は明確ではない.本研究では関東地方における夏期降水発現時の気温分布および気温低下の地域的特徴を明らかにする.さらに,降水事例の間隔を考慮した降水発現に至るまでの気温の解析も踏まえ(藤部ほか2002,澤田・高橋 2007),降水発現後に無降水日における気温に対応するまでの時間経過を吟味しておく.
資料:2010~2014年の夏期(7,8月)を対象とし,降水発現時の気温低下幅の把握にアメダス10分値(4要素)を用いた.欠測は最大で1.5%(鹿島)であり,すべての観測地点の資料を用いた.降水発現時と無降水時は全事例,気温低下の時間変化は対流性降水事例(76事例:領域平均日照率≧80%,12~24JSTに発現し地点周囲で無降水)によった.そして,対流性降水日と領域晴天日(計14日:0~24JSTの全域で無降水,領域平均日照率≧90%)の気温差の時間変化(降水発現前2時間~発現後8時間)に対してクラスター解析(ward法)を施した.
結果:無降水時と夏期平均気温との差は,降水頻度の多い北部山岳域山麓で大きく沿岸で小さく(図1),平均気温の高低に降水頻度の多寡との関連性が大きい(図2).ただし,無降水時と降水発現時との気温差は,広域高温に対応し(図3B)都心~平野北部で明瞭である(図3C).事例ごとの降水発現時の気温は,北部は発現地点数が広領域の事例は少なく気温も比較的高い一方,発現地点数が少なく気温の高い事例が多い(図4A).都心を含む南部は広領域で低温な事例が多いとともに,発現地点数が少なく高温な事例も多く(図4B),降水発現時の気温の標準偏差が平野北部(2℃)より大きい(2.4℃).平野北部は対流性降水事例が高頻度で,正午以降~日の入り前までに発現する事例(Ⅲ,Ⅳ)では,発現時前1時間の日照時間は気温低下に先立って減少し,その後の気温低下幅が大きい(3℃低下).また,発現後5~6時間で領域晴天日の気温の日変化と対応している(図5).夜間に発現した事例は(Ⅰ,Ⅱ)低下幅が小さいが,全対流性降水事例で降水発現前10分と降水発現時との気温差は,降水強度と関連し0.9~3.4℃低下する.日照のない夜間を含み降水強度の大きい場合にさらに低下幅が大きい.南関東では夜間および日中でも広領域降水発現時に強雨が多数発現する.南部では日中の日照時間の低下だけでなく,夜間および広域曇雨天で降水発現前の低温時に強雨に伴った気温低下が大きく,降水発現時の気温の標準偏差が平野南北で異なる領域を形成している.