日本地理学会発表要旨集
2016年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: 216
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発表要旨
京都祇園祭山鉾行事における伝統的な技術集団の現代的変容
*佐藤 弘隆
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抄録

はじめに 都市祭礼を特徴づけるものに風流と呼ばれる見物人の目を楽しませる出し物が存在する(柳田1956)。日本各地に存在する山・鉾・屋台が出される行事も風流の一種であり、都市の人々によって発展させられた文化である。住民構成や土地利用など、変化の激しい都市において、祭礼はいかに継承されているのか、祭礼を担う技術集団に注目し、その変容を明らかにする。 京都祇園祭山鉾行事 京都市都心で毎年、7月に行われる祇園祭の山鉾行事は前祭23基、後祭10基の山鉾を出す町内によって成り立っており、それぞれの町内が各山鉾の保存会を設立している。これが山鉾の運営組織であり、人員・資金・場所を確保することで祭礼の運営基盤を構築している。発表者はこれまでの研究で保存会による運営基盤の再構築を見出し、それが山鉾行事の継承システムとした。 伝統的な技術集団 山鉾行事の運営の中心は保存会であるが、実際に山鉾を動かす人々は別にいる。例えば、囃子方は鉾や曳き山の上で祇園囃子を演奏する人々、作事三方は山鉾の組み立てを担う技術集団である。祇園祭の山鉾行事の実働的な部分の大半は外部の集団に担われていた。特別な技術が必要とされない曳き手の場合、近郊の都市化に合わせて、担い手が近郊農家から大学の運動部やボランティア公募へと変化していくが(轟1997)、特別な技術が必要とされる囃子方や作事三方はどのような変容をし、技術を継承しているのか明らかにする。 囃子方の変容―船鉾の場合― 1960年代頃の船鉾では、太鼓方を主に町内が受け持ち、笛方をH家やA家といった演奏技術を持った血縁集団が担っていた(田井,2009)。長江家住宅に残されていた1966(昭和41)年の囃子方の構成員の記録によると、取締役こそ町内居住者の保存会役員であったが、副取締役、太鼓方・笛方の半分以上がH家とA家の血縁の人々であった。鉦方に関しては町内居住の子供たちが参加し、一部、その親戚やA一族の子供が血縁で参加していた。 1966(昭和41)年の鉦方で、2014(平成26)年の時点で現役の囃子方は2名しかいない。町内の子供たちは、高校生になると課外活動や大学受験の準備で囃子方から離れてしまうことが多いのである。しかし、当時の鉦方のうち6名は、2014(平成26)年の過去10年間で保存会の役員として活躍しており、囃子方は保存会と別組織であるものの、将来、保存会を担う人材の育成の場であった。 2014(平成26)年の囃子方の構成員をみると、1966(昭和41)年の鉦方を経験している2人は経験年数50年を超え、取締役と副取締役になっている。次の世代である1970 (昭和45)年頃に参加した者は、知人の縁で囃子方に参加する者が多い。現在、H家やA家の血縁者はほとんどみられない。また、町内人口の減少により町内の子供の参加も減少していた。そのため、新たな縁故による参加者の確保が必要とされた。この時期に集められた者も下京の出身者が多く、小学校の友人であったり、親同士が仕事で交流があったりする場合が多い。また、下京の出身でない場合でも、祖父母や両親のいずれかが下京に居住経験がある場合もみられた。町内に分譲マンションが建設された2000年頃からは、幼児期や出生前に両親が転入してきたマンション住民の子供がみられるようになった。 大工方の変容―船鉾の場合― 大工方は作事三方の一つであり、鉾や曳き山の装飾部分の取り付けなどを担う。船鉾の大工方の人員確保は、専業大工である親方やその代理の者に任されている。2014(平成26)年の時点で、経験年数の最も長い前親方は、父親が船鉾の大工方であったことで、自身も参加するようになり、兄弟で参加していた。前親方のもとには普段の仕事で師弟関係にある者や交流のある別会社の大工が職人という立場で大工方に参加した。そのうちの1人が現親方である。 現親方が初めて参加した1980年代初め頃、就業の多様化にともない、一族で大工を専業とする者が減ってきた。そのため大工方では、職人の代わりに手伝いと呼ばれるアルバイトを中心に人員確保が行うようになる。最もアルバイト経験の長いA氏は、高校時代の友人が前親方の息子であり、その縁により手伝いとして大工方に参加し始めた。そして、彼を中心に知人の紹介が連鎖的に始まった。その結果、大工方の構成員の職業は多様化した。 おわりに 山鉾行事に関わる伝統的な技術集団は町内の枠組から超えて、保存会とは別の運営基盤が構築されていた。それらは保存会の運営基盤と同様に都市の変化の影響を受けながら再構築されていた。

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