日本地理学会発表要旨集
2016年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: 104
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発表要旨
1990年以降の奈良県の都市における農業の変化
都市農業振興基本法の施行をふまえて
*石原 肇
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抄録

Ⅰ はじめに

都市農地は環境保全や防災,教育等の多面的機能を有し,都市において極めて重要なものとなっていることから,2015年4月22日に「都市農業振興基本法」が公布された.2016年5月13日には同法第9条に基づき「都市農業振興基本計画」が閣議決定され,市街化区域から市街化調整区域への逆線引きの促進,老朽化した建物のある土地の農地への転用など,都市農業に関する従来の考え方から大きな転換がなされている記述がみられる.今後,同法第13条に基づき地方公共団体は「土地利用計画」を策定することとなるが,この土地利用計画が都市農地を保全していく上での鍵を握るものと推察される.そこで,本研究では,地方公共団体が今後策定する土地利用計画のあるべき姿について,地理学的視点から検討を行う上で必要な基礎資料を得るため,日本の三大都市圏の一つである近畿圏の一部をなす奈良県の特定市とその周辺を研究対象地域とし,1990年以降の農業の変化を把握することを目的とする.

Ⅱ 研究対象地域と研究方法

本研究の対象地域は,奈良県における12市全てとその周辺の11町1村とする.現在,奈良県では12市の全てが生産緑地法の適用を受ける特定市となっている.また,平群町と三郷町,斑鳩町,安堵町,川西町,三宅町,田原本町,上牧町,王寺町,広陵町,河合町,山添村の11町1村を対象地域として含めた.その理由としては,これらの町村が,奈良県内の,あるいは隣接する大阪府の特定市に囲まれているからである.各データについては,以下のとおり収集を行っている.経営耕地面積,農家数等については1990 年,2000 年,2010 年の世界農林業センサスのデータを,生産緑地面積,宅地化農地面積については1993 年,2003 年,2013 年の国土交通省,奈良県のデータを用いている.これらの情報を図にすることで,1990年以降の奈良県の都市における農業の変化を把握する.

Ⅲ 結果および考察

本研究対象地域の農地面積の推移をみると,1990年に18,789haであったが,2000年には15,533ha,2010年には12,170haと大幅に減少している.農地面積の推移の内訳をみると,田は1990年に14,711ha,2000年に11,899ha,2010年に8,923ha,畑は1990年に1,601ha,2000年に1,240ha,2010年に965ha,樹園地は1990年に2,476ha,2000年に2,394ha,2010年に2,282haとなっており,いずれも減少しているが,田と畑の減少が著しい.1992 年に改正された生産緑地法に基づき指定された本研究対象地域の全体での生産緑地面積をみると,1993年には約641ha であったが,2003 年には約631ha,2013 年には約621haとなっている.指定から10年間ごとに約10haの面積が減少する傾向にある.このことから,生産緑地は一定程度の保全はされているものの,わずかではあるが減少する傾向にあるといえよう.本研究対象地域の農家数の推移をみると,1990年に33,734戸であったが,2000年には27,704戸,2010年には25,057戸と大幅に減少している.本研究対象地域の農業関連事業に取り組む農家の割合をみると,約31%となっている.今後、奈良県においてはこのような地域的特性を踏まえた上で,都市農地を保全するための「土地利用計画」を検討していく必要がある.

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