日本地理学会発表要旨集
2016年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: P1009
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発表要旨
稠密気象観測に基づく東京都区部を中心とした夏季夜間の気温分布
*堤 雅晴高橋 日出男大和 広明横山 仁三上 岳彦
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抄録
1.はじめに
都市域における気温分布は、日々の天気による影響とともに、海陸風などの局地循環と相互作用を持つなど複雑性を有する。本研究では、夏季(7~8月)の夜間を対象に、東京の都心と都区部外側との気温差(TD)に与える気象条件の影響を吟味する。TDに影響を与える気象要素(雲量、風速、露点温度、全天日射量)の解析には5夏季(2006~2010年)における1時間データを用いた。その後、3夏季(2006~2008年)にわたる208地点の稠密観測データによる都区部内外の気温分布の特徴を、夜間気温分布域や風系の時間変化に注目して解析した。また、東京の夜間気温分布に関する夏季と冬季(高橋ほか 2014)との差異についても比較した。
2.データ
気温は気象庁のAutomated Meteorological Data Acquisition System (AMeDAS)と東京都などの自治体が設置する大気汚染常時監視測定局(常監局)、Extended Meteorological Environmental Temperature and Rainfall Observation System (広域METROS)の3観測網のデータを用いた。AMeDASと常監局については風の観測データも使用した。
3.結果
(1)都心と都区部外側の気温差を、東京(大手町:気象庁)の気温と、都区部外側4 地点のAMeDASによる平均気温との差(TD)として定義した。気温差が最も大きくなる04時の気温差を被説明変数として、東京(大手町)における各種気象要素との関係をステップワイズ法による重回帰分析を用いて検討した。その結果、TDに影響が大きい気象要素として風速と雲量が得られた。ただし、TDに与える影響の程度は、冬季では雲量が風速に比べてかなり大きいと見積もられているが、夏季では同程度であった。
(2)夜間に晴天弱風の日でも、冬季の気温分布と比較して都区部西側における気温急変域が不明瞭であった。夏季には冬季に比べて特に日没前後の気温低下量が小さく、この時間帯にTDが拡大しにくいことが気温急変域を明瞭にしない要因と考えられ、季節による放射冷却の現れ方の差異が関与している可能性が示唆された。また、夏季には都区部北側に高温域が残存し、都心に気温の極大が現れる時刻が遅い傾向にある。
(3)晴天弱風日であってもTDに事例による差異があることに注目し、日の出直前にあたる04時のTDが大きい場合(11事例)、中程度の場合(12事例)、小さい場合(12事例)に3分類した。TDが大きい場合と小さい場合の04時における気温偏差のコンポジット図を図1に示す。TDが大きい場合には、内陸からの風系が比較的早く(23時頃)開始して風速も大きく、夜半から早朝には局地風前線が東京湾沿岸まで進行し、局地風前線の都心側に高温の中心が認められた。一方でTDが小さい場合には、夜間における内陸からの風が弱く、局地風前線も不明瞭であった。またTDが中程度の場合は、前日日中の日射量が大きく海風が強い傾向があった。都区部北側から埼玉県南部には夜間においても明瞭な高温域が存在し、夜間の内陸からの風系に伴う局地風前線はこの高温域付近で停滞していた。このようにTDの大きさには、都区部外側の気温を低下させやすくする夜間の内陸からの風の吹走や局地風前線の位置が大きく関わっていると考えられた。
参考文献
高橋日出男・清水昭吾・大和広明・瀬戸芳一・横山 仁(2014):稠密観測データに基づく晴天弱風の冬季夜間における東京都区部を中心とした気温分布について.地学雑誌, 123,189-210.
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© 2016 公益社団法人 日本地理学会
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