抄録
1.はじめに
平成28年熊本地震における液状化発生地点の分布と土地条件に関する調査をおこなった。本発表では、現時点までに得られたそれらに関する調査結果について報告する。
2.調査方法
①熊本平野を対象として現地踏査をおこない、目視観察に基づいて液状化発生地点(噴砂、液状化に起因すると思われる構造物被害や地盤変状)のマッピングを実施した。②国土地理院撮影空中写真やGoogle Earth画像などを用いて、それらから明瞭に視認できる噴砂の抽出・マッピングをおこなった。③GIS(Arc GIS 10.3.1)を用いて液状化発生地点と国土地理院土地条件図や空中写真などとを重ね合わせ、液状化発生地点の土地条件を検討した。④旧版地形図、江戸期の絵図や文書資料を用いて、液状化発生地点の土地履歴(特に河道(水路)や土地利用の変化)を検討した。それらに加え、SAR干渉画像と液状化発生域との関係についても検討した。
3.調査結果
熊本平野の広域かつ多数の地点において液状化が発生したことを確認した。本地震による液状化発生地点の分布は、熊本市が公表していた液状化ハザードマップの被害想定とは異なる傾向がみられた。
GISを用いて液状化発生地点を国土地理院土地条件図や空中写真に重ね合わせた結果、液状化発生地点は自然堤防、旧河道、盛土地、砂利採取場跡地において相対的に多く分布し、氾濫平野と海岸平野・三角州においては相対的に少ないことが示された。白川下流域左岸では、液状化発生地点が帯状に(細長く列状に)分布する自然堤防が複数みられた。それらのうち、土河原町~砂原町および中原町の自然堤防上の液状化発生地点は江戸期の絵図に描画されている小河川(水路)と領域的に合致しているように見える。このことから、それらの液状化発生地点の地形条件は小河川(水路)が陸化した(埋め立てられた)旧河道に該当する可能性がある。熊本市南区近見から南区元三町にかけて南北に帯状に延びる自然堤防上では、液状化構造物被害が多数発生した(図1)。この液状化発生域はSAR干渉画像の非干渉域と良く一致しており、この領域で液状化(噴砂)の発生による地表状態や地盤形状の変化が生じたことが示唆される。また、この液状化発生域は、自然堤防上のさらに細長い領域(幅100m未満)に限定されるため、その領域には自然堤防を形成・発達させた河川(または水路)がかつて存在していたことが考えられる。しかし、明治後期(1901年)測量1/20000地形図、江戸期の伊能図や絵図にはこの帯状の液状化域に河川は描画されておらず、白川下流はほぼ現在と同じ流路であったことが読み取れる。その一方、13世紀後半に川尻地区(元三町付近)で白川と緑川が合流していたことを記述した文書(大慈寺文書)が存在する。それらのことから、白川が川尻方面に南流していたのは江戸期初期以前までであった可能性がある。今後、この地区の液状化発生要因に関して、白川の河道変遷とそれに伴う地形発達、液状化層の土質や土木史(河川改修の歴史や河川・水路埋め立ての有無)などの検討が必要である。