抄録
本稿では、地域の高齢化の進展などにより,地域住民が買い物に関する問題を有しやすく、今後の事例の増加や問題の深刻化が懸念される大都市近郊の住宅団地を対象としたアンケート調査の分析を行う。具体的には、1)地域住民の食料品の買物環境・購買行動の実態の把握,2)食料品の買い物環境の評価に用いられる主観的指標の相互の関係性の検討,を通して,今後の買い物難民問題に対する調査等に資する知見を得る事を目的とする. 分析対象をこま武蔵台地域(埼玉県日高市武蔵台1~5丁目)とした.2015 年11 月に住民へアンケート調査を実施し,611件の回答を得た.調査では個人属性や食料品の買い物に関する質問(主に利用する店舗や移動手段・満足度など)のほか,住環境,医療・福祉サービスや居場所の利用状況などについても質問した. 対象地域で特に利用者が多いのは1)地区内の店舗、2)高麗川駅周辺の2店舗,3)飯能市にある市境界付近の店舗である.地区内の店舗は徒歩利用,高麗川駅周辺の2店舗と飯能市の市境界付近の店舗は自動車利用が主である.これらの店舗に対して,総合満足度を除く11種類の満足度(①距離,②到達安全性,③交通利便性,④店舗の信頼感,⑤接客,⑥通路の広さ,⑦トイレ利用,⑧商品のとり易さ,⑨品揃え,⑩品質,⑪価格)への不満の有無を集計したところ,1)の地区内の店舗では商品の質に関する不満(⑨~⑪)が多い一方で,2),3)の地区外の店舗では店舗への到達性(①~③)に関する不満が多かった. これらの満足度が店舗の総合満足度に与える影響をみるため,前述の11種類の満足度に対して因子分析を行った.その結果,(1)店舗質(商品・設備)に関する因子(④~⑪の因子負荷が大),(2)店舗へのアクセス性に関する因子(①~③の因子負荷が大)0と解釈できる2種類の因子を得た。さらに,前述の1)~3)の立地の異なる3種類の店舗(群)ごとに総合満足度を被説明変数,上記の2つの因子を説明変数とする重回帰分析を行った.結果としては、いずれの店舗も、店舗質に関する因子の方が総合満足度に対する重みが大きいが,アクセス性に関する因子は立地ごとに違いが見られた.これには、それぞれの店舗を利用する住民の属性や、店舗までの距離の差異が影響を与えていると考えられる。 これらは,今後の買い物環境の調査計画等において,店舗への評価を買い物環境の良否を問う指標として用いる際に一定の考慮が必要な点と考えられる.