日本地理学会発表要旨集
2016年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: 101
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発表要旨
日本における鶏肉食の展開
生産と消費の繋がり
*シュレーガ ベンジャミン
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抄録

1 初めに 日本の養鶏産業は、昭和時代から徐々に産業型に変動してきた。今日、インテグレータが中心となり現在の養鶏業界を大きく形作っている。本発表では、日本の養鶏業界の展開における、鶏の飼育方法と鶏肉の食文化の変容過程、および生産と消費の繋がりについて分析する。本発表では特にcommodity chain(コモディティチェーン)の移り変わりに着目し議論を進める。
2 鶏肉食の展開日本の食文化において、卵は鶏肉に先駆けて一般的な食卓に普及した。昭和初期、カツやケーキなどの洋食が増えてきた流れの中で、卵ブームがあった。国内の養鶏は副業としてなされることが多かったことから、小規模養鶏は自給のために行われ、販売されるのは過剰分の卵と鶏肉が主であった。増加する卵の需要に対応するように、中国から輸入を行うようになった。
その輸出入の差に対して、日本政府が養鶏業界の支援に乗り出し、この戦略により5件の養鶏試験場が建立され、養鶏農家への補助金のシステムが創立された。北村(1987)によると、1921年から1935年にかかけて、養鶏農家一戸あたりの平均羽数は8.7羽から18.2羽へ増加し、それに伴い、全国の養鶏羽数は2,773万羽から5,170万羽に増加した。しかし生産の大規模化が進むにつれ、飼料や流通ルートの整備といった問題点も多数現れてきた。
養鶏業界の日比野(1941)らが提案したように、第二次世界大戦中において、「満州新養鶏法」という大規模の飼育方法が目指された。ただ、この計画は満州産の飼料に依存したことにより様々な面において失敗した。大戦直後は、自給率を保護するために「草鶏」という飼育方法が広まった。輸入飼料への依存の脱却のために多くの農家が飼料と鶏、両方の管理を行った一方で、米国国内における飼料の生産過剰問題があり、結局、日本における米国の飼料は輸入は続けられた。輸入飼料の流通は大規模農業企業を通して行われたため、そのような大規模企業の国内の養鶏産業における役割の拡大につながった。
飼料流通の整備とともに、養鶏の産地の移動も行われた。長坂(1993)が論じたように、戦後は都市周辺におけるブロイラー産業が増加したが、70年代以降は遠隔地域に移動した。後藤(2013)によると、遠隔地域の中でも、インテグレータの指導のもと鹿児島県と宮崎県が日本のブロイラーの大産地として形作られた。冷蔵方法の整備も進み、南九州から東京の中央市場までの流通が進んだ。
ブロイラーの生産が増加する一方で、消費需要の伸び悩みが業界の課題となった。三菱株式会社がこの問題を把握し、米国のケンタッキーフライドチキン本社と結びつきを深めたことで日本ケンタッキー社が設立された。日本ケンタッキーは宣伝広告を通して消費者にブロイラーの魅力を伝えた。さらに、カーネルサンダースとクリスマスのキャンペーンが大ヒットとなった。文化および生産においても日本ケンタッキーが鶏肉の消費において果たす役割は重要なものであった。Dixon(2002)がコモディティチェーンアプローチを用いて評論したように、小売業を通して生産と消費の再編成が行われたのであった。
経済成長と同時にブロイラー産業が激増し、さらに90年代以降はグローバル化の影響で安価のブロイラーの輸入増加により、養鶏産業は激しい競争となった。農林水産省によると、ブロイラーの平均羽は1975年から2005年にかけて7,600羽から21,400羽と約3倍に増加した。現在、ブロイラーの平均羽は56,900となった。
このように、日本における養鶏産業の展開には国内外の様々な経済そして政治的な要因が影響を及ぼしてきた。本発表では、上述のように、まず飼料配分と食文化の変容において米国が果たす役割について述べる。さらに、近年における食の安心の問題への関心の高まりとともに着目される。食における「ブランド」の働きを考察することで、国内の鶏肉の生産と消費がどのように展開されてきたのかを論じる。

3 文献
日比野兼男. (1943) 満洲新養鶏法.鶏の研究社.
北村修二. (1987) わが国における養鶏業の地域的展開.名古屋大学文学部研究論集 p149-174.
長坂政信.(1993)アグリビジネスの地域展開.古今書院.
後藤拓也. (2013) アグリビジネスの地理学, 古今書院.
Dixon J. (2002) The changing chicken: chooks, cooks and culinary culture: UNSW Press.

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© 2016 公益社団法人 日本地理学会
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