抄録
1.はじめに
現在,経費削減やそれに伴う人員の削減により無人駅の数が全国的に増加している.特に旧国鉄線から転換されて成立した第3セクター鉄道は,主に経費削減を目的として多くの駅を無人化している.無人駅には常駐する職員がいないため,管理が行き届かないことに伴う問題が起きやすい.こうした中で一部の第3セクター鉄道会社は,無人駅に飲食店や公民館などの駅とは異なる機能を持つ施設を併設して活用しながら維持管理する試みを行っている.本研究は,全国の第3セクター鉄道会社における無人駅とその活用の状況を考察することを目的とする.
2. 第3セクター鉄道の無人駅の状況
無人駅の現況調査にあたっては旧国鉄から転換された全国の第3セクター鉄道33社を対象としてアンケート調査を行い,30社から回答を得た(2015年8月).この結果によると第3セクター鉄道においては628駅中,全体のおよそ71%にあたる446駅が無人駅である.東日本旅客鉄道の管内において無人駅は614駅(全体の36%)であり,これと比較しても無人駅が全体に占める比率の高さが読み取れる.
3. 無人駅活用の状況
無人駅を活用しているのは30社中16社で,活用は全国的に見られる.ただその活用駅数に関しては鉄道会社によってばらつきがある.全国的に見ると,西日本において比較的多くの活用例が見られる.回答のあった30社では,無人駅の活用が会社主導というよりはむしろ沿線住民の発案・行動がきっかけとなって始まった場合が多く,また鉄道会社側としても沿線住民同士の交流活性化や沿線住民と外からやってきた観光客との交流活性化を無人駅活用の主目的としている.ただ,活用されている駅は全国で僅か42駅であり全体の1割に満たない.その中でボランティアを活用して無人駅を維持管理していこうとする鉄道会社が存在する.このボランティア制度を導入しているのは7社であり,また1社が導入を検討している.制度を導入済みの会社は東北から九州にかけて広く分布している.導入目的としては地域との連携強化や駅の利便性の向上などが挙げられている.また,各会社線の駅あたりの職員数(全職員数/駅数)を調べると,概ね3.5人を下回る鉄道会社においてボランティア制度が導入されていることがわかった.ボランティア制度を導入している7社のうち6社は導入の目的が達成されている,または達成されつつあるとしており,ボランティア制度は一定の効果を上げているといえる.一方で,殆どの会社はボランティア応募者の不足を問題視している.本研究においては,ボランティア制度を導入しており無人駅の活用がある鉄道会社2社を選択して具体的事例研究を行った.
4. おわりに
無人駅は全国に分布しているが,特に中心都市の近辺に位置している鉄道線において活用事例が多く,沿線以外からの訪問利用客の数に影響を受けている可能性がある.また,無人駅の活用の経緯や目的はいずれも沿線住民との関わりに関係する事柄が多く,活用にあたって鉄道会社が沿線住民とのつながりをかなり意識している状況が明らかになった.この点はボランティア制度の導入理由とも共通している.そして,ボランティア制度を導入している会社は1駅あたりの職員数が比較的少ない会社であり,本制度は職員の少なさを補完する役割も担っていると言える.ボランティア制度は効果を上げているが,ボランティアを継続的に確保する課題があり,制度の広報方法の検討やボランティアの活動の自由性を上げるなど何らかの工夫が必要になる可能性が示唆された.