日本地理学会発表要旨集
2016年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 507
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要旨
農村志向の若手移住者等による協働のシステムと共有のネットワーク
-北海道十勝管内の事例から-
*鷹取 泰子佐々木 リディア
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抄録

■研究の目的
我々は農村を志向して移動する人々が、革新的で協働的な起業活動を実現している状況に着目し、その実態調査および検討を進めてきた。本報告は北海道十勝管内を事例に、移住してきた若者らによって構築された協働のシステムとその共有のネットワークの実情を把握しながら、彼らを支えるさまざまな仕組みを明らかにする。

■事例地域概観
北海道十勝管内は畑作・畜産を中心とする農業が盛んであり、広大な十勝平野は日本の食料供給の重要拠点として機能してきた。明治時代以降始まった開拓により、内陸の平原は田畑へ変わっていったが、山脈には豊かな生態系が維持され、アウトドア活動の場を提供してきた。一方、マスツーリズムの対象となる観光施設は少ないが近年は大規模畑作農業地域という特徴をそのまま活用したガイドツアーが登場するなど、農家らと協働で実現させたツーリズム分野の発展が期待される地域でもある。

■若手移住者等による起業活動の状況
<事例1:30代のA夫妻の場合> 主にネイチャーガイドの仕事で生計を立てているA夫妻は、十勝出身のA子さんの祖父母が入植した敷地でペンション経営も手がける起業家である。共に道内の大学で学び、学生時代の実習や余暇活動、外国のファームステイ体験、会社員生活等を経て、2010年に独立、現在に至る。当時は地域内で独立起業・活動するガイドは皆無で、その将来を不安に感じたというが、2010年夏以降、アウトドアの繁忙期(GW-11月上旬)は常に予約で埋まっている。こうした状況の成立要素としては(1)地域の自然環境、野外活動に関する豊富な知識・経験、(2)会社員時代に取得した様々な資格、(3)広報手段としてのウェブサイト充実化、(4)アウトドア愛好家時代に発信し始めたウェブの読者の顧客化等を指摘できる。公的助成制度の助けを借りた宿泊施設の開設・経営は、過去の予約状況等をみる限り、ガイド収入を補助する活動であると推測された。
<事例2:50代のB氏の場合> 帯広市出身のB氏は2000年代後半に東京より帰郷し、近年はまちおこしやオーガニック志向の活動を多数仕掛けている。現在の主な活動の1つが中心市街地におけるシェアハウス兼ゲストハウスの運営で、木造家屋(土地付)を購入、リフォームの後、任意団体を組織しながら会員制にて運営している。その運営はB氏が手がけるWWOOF(ウーフ)の活動ともリンクさせている。WWOOFは有機農業に関わる労働力を提供する"ウーファー"と彼らの力を必要とするホストが協力・活動するNGOである。B氏は国内外から来るウーファーのための滞在拠点としてもシェアハウスを活用し、ウーファーは有機農業やカフェの担い手として働く。彼らは有機や環境保全といった価値観を共有しながら交流し、地元にフィードバックできるように試行錯誤している。

■移住者等の協働のシステムと共有のネットワーク
十勝管内における移住者も短期的な滞在者も、ある共通した価値観を持つ人々と必要に応じて情報交換し、日常的に共有しながら、地域に根ざした活動を広げている。彼らがとくに共通して重要視する価値観はライフスタイルの充実である。かつて重要視された経済的な価値は相対的に低くなり、家族と過ごす人生、ライフスタイルの実現と充実の手段に過ぎなくなっている。彼らの活動は現代の様々な社会経済的システムにも支えられ、近年はSNSを通じた地域内外、時に国境を越えるネットワーク構築の意義とその可能性がもはや無視できないほど大きくなっている。日々の活動をSNSを通じて発信、世界中の仲間と瞬時に共有するネットワークづくりの意義は今後ますます重要になってくるだろう。

■ポスト生産主義の枠組みから見た状況と今後の展望
日本とルーマニアで実施してきた複数回の調査の結果を通じ、両国を取り巻く社会経済的状況は相違しているものの、いくつかの点で共通する価値観・要素が見いだされることがわかってきた。ライフスタイルを重要視する生き方はポスト生産主義的な枠組みから生まれてきたと推測された。ルーマニアの状況と比較した場合、例えばグローバルな宿泊予約サイトへの登録数や外国語対応の点で日本は発展途上であり、若手移住者たちの活動の活発化と地域貢献の拡大に期待したいところである。

■謝辞: 本研究を進めるにあたり,JSPS科研費 26580144の一部を使用した。

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