日本地理学会発表要旨集
2016年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: P054
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要旨
効果的な避難行動のためのサイクロン警報システムに関する考察
バングラデシュ沿岸地域を事例として
*坂本 壮パルビン グルサン アラショウ ラジブ
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抄録

1.はじめに
バングラデシュは国土のほとんどが標高10m以下のデルタ地帯である.ベンガル湾に面していることから,過去多くのサイクロン災害に見舞われてきた.1970年のサイクロンでは300,000名を超える死者を記録している.このサイクロンを契機にバングラデシュでは,避難所となるサイクロンシェルターの建設や適切にサイクロン警報を伝達するCyclone Preparedness Program(CPP)といった対策を施している.  これらの防災対策の実施により死者の数は減少傾向にある.しかしながら,近年大きな被害を出した2009年のサイクロン Ailaでは,カテゴリー1の比較的小さなサイクロンであったにも関わらず,上陸が満潮時と重なったこともあり,高潮の高さは最大6mを超え,190名の死者を出した.

2.研究概要
本研究では,サイクロンAila時の住民の避難行動を明らかにし,適切な避難行動を促すサイクロン警報システムに関する議論を行う.2015年9月にバングラデシュ南西部のシャッキラ県ガブラユニオンにて,サイクロンAila時の避難行動とサイクロン警報の取得に関するアンケート調査を行った.回答数は200(男性149名,女性51名)である.

3.結果と考察
2009年サイクロンAila襲来時,上陸の26時間前には避難指示がテレビやラジオ,CPPなどを通じて沿岸地域住民に対し発令された.しかしながら,アンケート結果によると,住民の避難指示の取得率は45%にとどまっており,適切な避難指示が十分になされたとは言い難い.避難指示の取得時期に関しては,女性の取得時期に遅れがみられ,90%以上の女性が大雨・浸水がすでに始まっている時点での取得であったことが分かった.  避難行動に関するアンケート結果から,避難準備にはおおよそ1-3時間,自宅からサイクロンシェルターへの避難には近くに住む人でおよそ1時間,遠くに住む人では1-3時間程度の時間がかかることが分かった.すなわち,避難準備から避難完了までには多くて6時間程度要することが明らかとなった.  図1は住民の避難指示の情報源に対する信頼度である.モスクやマスメディアの信頼度が高いのに対して,CPPボランティアに対する信頼度があまり高くないことが判明した.以上より,平常時におけるモスクを拠点とした防災対策の実施,信頼度の上昇を目的としたCPPの積極的な防災対策の参加が住民の適切な避難行動を促進する効果的な方策であると考えられた.

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