抄録
温度変換日数法による満開日モデルを構築し,咲き始めと満開の生態応答評価を試みた。
研究対象期間は1961~2005年の45年間とし,2009年まで気象庁によるサクラの開花予想にも使用されていた温度変換日数法を用いて解析した。気温に対する生育応答が開花日の場合と同じかを検討する予備解析を行ったところ,満開日計算で適切な温度特性値(温度に対する生育応答の変化を代表する変数)は開花日に関する値(70 kJ mol-1)と同じと決定した。
続いて,全国55地点のデータを用いた本解析を行った。まず,最小の誤差を与えた起算日D1を用いたモデルIにおいて,各地の満開までに要した積算値をまとめ,これに基づき全国一律の値を決めた。その結果(26.4日分)は,開花日に関する同様の値(23.8日分)より大きかった。
満開までの一律の積算値に対応する起算日(D2)は,開花日の場合の起算日より晩かった。これらを用いた満開日の推定モデルIIによる推定誤差は,ほぼ全地点でRMSEが1~3日と比較的小さく,またモデルIと比較しても推定精度の低下はほとんど見られなかった。
解析結果を概観すると,満開日に咲く花芽の生育は,最初に咲く花芽より休眠覚醒が少し晩く,その影響で満開までに必要な積算値がより多くなったと考えられる。咲き始めと満開を起こす花芽は別なので,開花初日からの延長で満開を捉えるのでなく,独立した方法によって各々を計算する方が,推定精度も良くなり,生態反応の流れの実情により沿ったものになることがわかった。