抄録
目的:都市ヒートアイランドに対する人工建築物の寄与は,観測やシミュレーションによって示され,観測では集住している建築物を対象とし,人間活動を含んで都市ヒートアイランドに対する建築物の寄与が議論されてきた。人間活動を除いた建築物の寄与は,Sugawara
et al.(2006)が,建替え前の集合団地において都市キャニオンの熱輸送の鉛直構造で指摘している。本研究では,非居住の集合団地とその周辺における気温の水平分布を多数の観測から捉え,都市キャニオンの気温分布に対する建築物の寄与を定量的に評価する。
方法:群馬県伊勢崎市に位置し,人の出入りが周囲においてもほとんどない非居住のフラット型集合団地(写真1)で,並列する2棟とその周辺を観測領域とした。建築物東・西端を含む東-西7列,南-北9列(全63地点)において気温,湿度,地表面放射温度の移動観測を2015年3~9月の無降水日に行った(計66回)(図1)。建築物壁面放射温度,風速についても観測開始時に記録している。なお,地表面は裸地で多少の植被が認められたため植被率も記録した。そして,移動観測(66回)で得られた気温分布に基づいて主成分分析を施した。その際,都市ヒートアイランドやキャニオンの気温特性は,周辺との差から抽出されることを考慮し,気温を空間的に相対化した。すなわち,各地点の気温(Ti,j ) に対する各観測の領域平均気温(MTj )の偏差(RT )の地点ごとの平均(Ti , j-MT j )を算出し,それと各観測の地点の気温差
RTA=(Ti,j-MT j )-(Ti,j-MT j )に対して相関行列による主成分分析を施した(iとj は地点番号と観測回( i = 1~63,j = 1~66)である)。
結果:第1主成分(寄与率:27.9%)は,N・S棟の南側において負で大きい因子負荷量が分布している。第2主成分(13.8%)の因子負荷量は,キャニオンで正,S棟南側で負,第3主成分(12.8%)はS棟北側では負で,セミキャニオン~非キャニオンでは正で因子負荷量が大きい。第4主成分(9.0%)の因子負荷量は,非キャニオン中央で正および南端で負を示す(図2)。第1主成分得点が負(-0.50≧)のRTAの分布は,N・S棟の南側において高く,キャニオンで差が大きい(図3a)。RTAと同様の方法で算出した地表面放射温度の分布(図3b)は,N・S棟南側において正で,RTAの分布と高い相関(r=0.71)を示す。建築物壁面放射温度と地点気温の差については,キャニオンで差が小さくセミキャニオン,非キャニオンの順で差が増大する(図3c)。さらに,観測事例すべての南-北方向の平均RTは,キャニオンにおいて変化が明瞭で(図4),これらは建築物からの距離および日陰日向に対応している。このように,RTAと地表面および建築物壁面放射温度との関係は,寄与率が最大で建築物周辺で負の因子負荷量を示す第1主成分において対応がよく,キャニオンの気温分布はセミキャニオンに比べ建築物および地表面の放射温度の寄与が大きいことがわかった。なお,第2主成分は雲量と風向風速,第3主成分は観測領域における気温分布,第4主成分は植被率に対応していると考えられる(図なし)。