日本地理学会発表要旨集
2016年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 920
会議情報

要旨
学校・地域連携によるコミュニティの再編
横浜市立小学校区を事例に
*田邉 走美
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録
1.研究の課題と目的
2000年代から全国の学校を挙げて「学校・地域連携活動」が推進されている.児童生徒の学びを充実させるだけでなく,活動を通じて地域住民や保護者同士の関係を深めることもそのねらいの一つとされている.しかし,その関係は「つながり」や「連帯」といった抽象的な言葉で語られることが多い.多様な社会層を活動に取り込み,学校を中心としたコミュニティを構築していくために,現在行われている学校・地域連携活動によって形成された社会関係の地域性を明らかにしなければならない.学校と地域社会の関係を語る上で,学校・地域連携活動によって形成される新たな社会集団をとらえることは,今後の学校・地域連携を発展させるために重要である.
そこで本研究では,学校・地域連携によって形成される地域住民組織に属する人々の社会属性を明らかにし,その地域性および参加者間の関係について考察することを目的とする.
2.研究の方法
調査は,2015年5月から12月までに横浜市立の2つ小学校において,教育ボランティアへの聞取りを行なった.
A小学校のある栄区は,自治会・町内会の加入率が83.3%で横浜市内では最も高く,従来型のコミュニティが維持されている地域である.
一方,B小学校のある神奈川区は,自治会・町内会の加入率は72.9%であり,横浜市で18区中12番目と下位である.2000年以降,臨海部において高層マンションが建設されたことによって引き起こされた大規模な人口流入がその一因と考えられている.
3.教育ボランティアの社会属性とその地域性
A小学校区とB小学校区には4点で地域差が認められた.第1に,人口変化である.最近10年間におけるA小学校区での人口にはあまり変化はみられないが,B小学校区では構想満床の建設によって,大幅に増加している.第2に居住形態と町内会・自治会組織の有無および参加形態である.A小学校区における居住形態は多様であるが,ほとんどの住民が自治会や町内会に加入し,当番制によって何らかのかたちで行事に参加している.一方,B小学校区ではボランティアに参加する住民の大多数が高層マンションに居住している.入居時に自治会組織がつくられ加入するが,具体的な活動はほとんどない.
第3に,ボランティア組織の形態である.A小学校における花壇整備や読み聞かせ,図書整備では,保護者の自主的な気づきから開始され,後に他の活動とともに学校が一括してボランティアの登録と管理を行うようになった.B小学校では,学校・地域コーディネーターを中心に共育倶楽部が設立され,その運営は地域住民や保護者に一任されている.第4に参加者属性では,どちらの学区においても40代女性のうち専業主婦が最も多い.B小学校では,特に単発でボランティアの募集がある学習サポートにおいて,専業主婦の参加が顕著である.一方,A小学校にみられたように,従来の学校への参加形態であるPTAでは,パートや就業者など職業に多様性がある.しかし,ボランティアではフ花壇整備や読み聞かせ,図書整備といった活動頻度の高い活動への参加は,専業主婦に偏っている.
以上の結果から,近年人口流入が起こった地域では,町内会や自治会などの従来型組織との関係が薄いため,学校・地域連携活動は新たなコミュニティを再編する上で重要だと結論づけた.
著者関連情報
© 2016 公益社団法人 日本地理学会
前の記事 次の記事
feedback
Top