日本地理学会発表要旨集
2016年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 705
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要旨
宝塚歌劇における風土記
風土記愛に関する報告(2)
*立岡 裕士
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抄録
風土記愛(「風土記」という語を愛好すること)は現代日本の社会現象の一つである。立岡(印刷中)は図書についてその盛衰を調べた。本発表では宝塚歌劇の演目について報告する。日本近代の演劇史における宝塚歌劇団(以下、宝塚)の位置はさしあたり問題ではなく、「社会」の嗜好を反映するものとしての宝塚歌劇を検討する。宝塚が創業以来一般大衆を志向し敏感であること、その点は演目にも反映していると思われること、年間200万人の入場者があること、からこうした検討は可能であると考えられる。

宝塚は1~1.5ヶ月を単位として公演を行い、一つの公演では1~2作品を上演する(創業最初期を除く)。2015年までの101年間に本拠劇場で延べ2565作品(実数は2248ほど)を演じた。そのうち、題目に関わる何れかの部分に「風土記」という語が用いられたものは10(ないしは11)作である。4(~5)本がミュージカル、それ以外はレビューに大別できる。ちなみに、記紀・風土記の説話を素材とした演目はほとんどない(日本神話に限らず、神話に取材した演目は少ない)。

・続演ないし再演された作品は全体の1割強であるからほとんどの「風土記」作品が続(再)演されていないのは当然としても、東京においてさえ公演されていないものもある。それらは興行的には失敗だったのだろうか。
・英語題名のわかっている5作品のなかで風土記に該当する語があるのは「浜千鳥」の初演時のみである。「風土記」が「日本」人に向けた題名であることをうかがわせる。
・物語風土記は「民俗舞踊」シリーズの傍系作品の一つである。シリーズ本体同様に「日本」の民話劇を創出することを追究している(同じ様に民話に取材しながら、明確に沖縄を意識している「浜千鳥」とはこの点では異なる)。同シリーズとともに浮沈したのであろう(渡辺, 2007)。1950~60年代には一般向け・児童向けの古風土記訳書が出版されており、説話集としての風土記のイメージがあったのではなかろうか。
・「わらべ唄風土記」は民俗舞踊シリーズと直接の関係はないが、当時同様の活動を行っていた花柳徳兵衛を招いて制作されたものであり、物語風土記と同様の性格であろう。
・「こども風土記」は柳田国男の同名著作を踏まえたものであり、一般読者に対する柳田の影響の強さを示す。それ以外のレビューの風土記がそれぞれの時期に現れるべき理由は明らかではないが、「わらべ唄風土記」も含めて、宝塚の演目にはほとんど使われていない「子ども」と組み合わされ、また「花」と結び付けられていることは「風土記」に担わされているイメージが郷愁的なものであることを示しているのではなかろうか。
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