日本地理学会発表要旨集
2016年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: P050
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要旨
ラオス中部,ヴィエンチャン平野におけるシロアリ塚の分布と形態
*小野 映介野中 健一竹中 千里梅村 光俊奥野 正樹
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抄録
アジア・アフリカ各地に分布するキノコシロアリの繁殖虫や働きアリは食用やエサとして,巣の一部(アリ塚)の土は作物肥料や農地として使われている.他にも,アリ塚の土は薬として用いられたり信仰の対象とされたり多様な利用が認められ,重要な資源として位置づけられる.アリ塚上に生育する樹木は,用材として利用されるばかりでなく,小動物の生息場となり,落葉は周辺水田の肥料になる.アリ塚は農地にあると作物生産地としては不合理に思われがちであるが,農漁畜産業,食生活,精神生活において豊かな暮らしを構築する上で持続的に用いられてきた.  本研究は,シロアリおよびその生産物であるアリ塚を用いた持続的な生物資源利用に注目し,農業・生活の持続性にもたらす貢献,再生力と利用可能性を実証的に明らかにするために,アフリカ・アジア・中米地域で現地調査を実施し,その結果をもとに実証的な比較を行い,関わり方と広がりから普遍性を検討することを目指している.それにより,自然と人間の共生関係のユニークかつ新たな持続的土地利用の地域システムとして提示することが大きな目的である.これまで筆者らは,ラオス・タイ・南アフリカ・ジンバブエ・ボツワナ・パプアニューギニア・メキシコで,シロアリとアリ塚の利用およびその関連資源利用について調査を進めてきた.しかし,利用の根本であるアリ塚そのものの構成や形成メカニズムについてはわかっておらず,地道な実証的データの収集と分析が必要である.本発表では,シロアリ・シロアリ塚の活発な利用がみられるラオス中部のヴィエンチャン平野に位置するドンクワーイ村を事例として,シロアリ塚の分布状況と構造に関する調査結果および今後の展望を提示する. ドンクワーイ村では,森林をなるべく残しながら水田の開墾が行われてきたが,近年,森林の急速な伐採が進んだ.筆者らは,かつて村域南部に広がっていた森林(ドン・ソンポー)の北縁の約60 m四方を対象としてインテンシヴな調査を実施した.この範囲に分布するシロアリ塚について,ナンバリングとGPSによる位置の測定を行った.また,各塚の大きさを計測するとともに,構成土のサンプリングを実施した.さらに,典型的な塚を選定し,半裁を行うとともに外縁部にトレンチを設け,構造についての調査を行った.半裁した塚やトレンチ調査によって明らかになった塚の構造および周辺の地質について記載した後,粒度分析や微量元素分析用の試料を採取した.調査範囲では合計28のシロアリ塚を確認した.塚の形状や大きさは,それぞれ異なり,最も高いものは280 ㎝で,低いものは40 ㎝,最大幅は大きいもので600 ㎝,小さいもので50 ㎝であった.各塚を平均すると,高さは約110 ㎝,最大幅は300 ㎝であった.また樹木と塚の関係も多様で,樹木を取り巻くように形成された塚や,塚の上に樹木が繁茂したもの,樹木と関係なく形成された塚も見られた.塚の内部構造を明らかにするために,高さ60 ㎝,最大幅400 ㎝,最小幅340 ㎝の塚を半裁した.また,塚の外縁部(南側)にトレンチを設け,地表面下50 ㎝までの状況を確認した.塚は極細砂混じりのシルトからなり,塚とその周囲の堆積物との境界は不明瞭で区分は不可能であった.なお,塚およびその周辺における土壌の発達状況は貧弱で,A層は10 ㎝程度であった.塚の内部,地表面下50 ㎝から地表面上40 ㎝には,空洞部(巣穴やトンネル)がみられた.巣穴の直径は,10~30㎝で,それらを繋いでいると思われるトンネルの直径は5㎝程度のものが多かった.それらのうち11個の巣穴からは菌園が発見された。菌園から採取したシロアリは,Odontotermes formosanusおよびMacrotermes carbonariusの2種であると推定された.塚の半裁を行った翌日,塚を観察すると巣穴やトンネルの一部は,シロアリによって修復されていた.修復土には団粒構造が認められるのに対し,塚を構成する土に構造は認められない.この点は,塚の形成過程を考察する上で重要なカギとなりそうである.今回の調査によって,シロアリ塚の分布状況や,塚の構造が解明された.また,調査対象とした塚には2種のシロアリが共生している可能性も明らかになった.しかし,「塚を構成する土がどこからきたのか?」,「なぜ肥料や薬として利用されるのか?」という問題が残された.今後,試料の微量元素分析などを通じて,明らかにしていきたい.
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