日本地理学会発表要旨集
2016年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 511
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要旨
高齢者の孤立状態の地域的差異
*丸山 洋平
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抄録

高齢化が進む中で高齢者の多様化も進んでいる。健康状態、経済状態、世帯類型、地域社会との関係、ICTの利用頻度など、高齢者を一括りにはできなくなってきており、単純に高齢者数や高齢化率を見ても、高齢化社会の実態を捉えることが難しくなっている。今後は、今まで以上に特定の属性を持つ高齢者を対象とした政策の重要性が高まると考えられるため、そうした政策の形成過程に寄与するような特定の属性を持つ高齢者を把握する測度を開発し、普及する必要がある。日本では伝統的に老親介護は家族の責任とみなされ、ケア労働は家族が提供すべきものであるとされてきた。その家族介護を社会的介護に転換するという目的で介護保険制度が導入されたという経緯があるが、介護保険導入後も家族介護の果たす役割は依然として大きく、家族的なサポートを受けられない高齢者が生活で困難を抱えやすいという点がより強まっている可能性がある。本研究ではこうした高齢者を「孤立的高齢者」と捉え、その地域分布および孤立状態の地域的差異を分析し、孤立する高齢者の実態をマクロ的に把握することを試みるものである。  
孤立的高齢者を把握するに当たり、住宅・土地統計調査の「子の居住地別世帯数」のデータを利用する(1993年調査から2013年調査の5回分)。高齢単身者(データ上では高齢単身世帯)のうち、子の居住地が「片道1時間以上」と「子はいない」に分類される者を孤立的高齢者の操作上の定義とした。すなわち、一人暮らしであるために家族的なサポートを受けられず、かつ、子どもが遠居またはいないために日常的なサポートを受けられない高齢者である。
全国的な変化を見ると、孤立的高齢者は1993年の94.1万人から2013年の447.0万人に急増しており、高齢者全体および高齢単身者よりも大きく増加している(1993年を100としたときの2013年の大きさは、高齢者全体、高齢単身者、孤立的高齢者の順に188.7、358.9、475.0)。また、孤立割合(高齢単身者に占める孤立的高齢者の割合)は1993年の51.7%から2013年の68.4%にまで上昇しており、今や高齢単身者の7割弱が孤立状態にある。
孤立的高齢世帯の地域分布として、各地域ブロック別のシェアを見ると、東京圏のシェアが1993年の22.1%から2013年の34.2%に大きく上昇しており、孤立的高齢者が東京圏で集中的に増加していることが指摘できる。また、東京圏では、孤立的高齢者の方が高齢単身者よりも増加率が大きいことから、孤立的高齢者の増加が高齢単身者の増加を牽引しているという構造が示唆される。
孤立割合を地域ブロック別に見ると、いずれの地域ブロックも1993年から2013年の20年間で上昇しているが、特に大都市圏で上昇幅が大きい(東京圏56.7%→76.2%、中京圏48.5%→65.5%、大阪圏50.7%→71.7%)。その一方で、非大都市圏の地域的差異は、東北地方と山陰地方で孤立割合が高く、山陽地方、四国地方、九州地方では低いという傾向が20年にわたって継続していることが確認された。
東京圏に孤立的高齢者の増加が集中していることは、生涯未婚率の高さから考えると、結婚せず、未婚のまま高齢期を迎えたために単身化し、子どもがいないことで孤立するという状況が顕在化したものと捉えることができるとともに、孤立する高齢者に係る課題が東京大都市圏を中心に今後発生していくと見通されることを意味している。非大都市圏の孤立状態の地域的差異は、親子の同居規範、並びにそれに基づく家族形成行動が影響しているものと考えらえる。すなわち、同居ではなく近居を選ぶ傾向の強い西南日本では、子どもが近居する高齢単身者が相対的に多くなるため、孤立割合は低くなる。その一方で、同居傾向が強い東北日本では、親子同居する条件が整えば同居が実現されるものの、子どもが大都市圏へ流出したまま戻らない等の理由で条件が整わない場合に、単身の高齢親が孤立しやすいと考えることができる。

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