日本地理学会発表要旨集
2016年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 917
会議情報

要旨
小規模アブラヤシ栽培の拡大によるインドネシア地域社会の変容
人口センサスデータを用いた人口動態分析の試み
*小泉 佑介
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

1. はじめに
近年,インドネシアではパームオイルの原料となるアブラヤシの栽培面積が急速に拡大している.また,企業農園だけでなく,小規模なアブラヤシ栽培面積も400万ヘクタールを超えており,インドネシアにおける総面積の約4割を占めるまでに至っている.
しかし,こうした小規模アブラヤシ栽培に関する統計データは十分に整っておらず,その実態は明らかとなっていない.特に,これまでの先行研究では,どのようなアクターが小規模アブラヤシ栽培に携わっているのか,あるいはアブラヤシ栽培の拡大によって当該地域の労働市場にどのような変化がもたらされているのか,といった問いに対して,マクロな観点からその動態を明らかにする試みは見られなかった.
そこで,本研究では小規模アブラヤシ栽培が最も拡大しているスマトラ島リアウ州を対象とし,人口センサスのデータを用いて,同地における主要なアクターを把握し,彼らの就業構造の変化を分析する.

2. 人口センサスの概要とその応用
インドネシアにおける人口センサスは1961年から2010年まで6度にわたって実施されてきた.調査項目としては,年齢や性別,出身地,民族,宗教といった基礎的なものに加え,5年前に住んでいた州や婚姻状況,就学状況,就業状況などがある.
インドネシアにおける人口センサスの正確性に関して,政治状況が不安定な時期は予算が削減されていたり,民族といった項目に関しては明確な定義がなされていなかったりといった問題が指摘されている.
その一方で,2000年の人口センサスからは全ての調査項目が全数集計され,デジタル形式に変換された個票レベルのデータが一般に公開されるようになった.そのため,上述のような不正確さを考慮しても,人口センサスの個票データは,インドネシアにおける地域社会の動向をマクロな観点から考察していく上で有用なデータであると言える.

3. リアウ州における小規模アブラヤシ栽培の拡大
リアウ州は広大な低湿地帯を有している一方で,近年まで人口希薄な地域であった.そのため,1990年代からリアウ州に隣接する北スマトラ州や西スマトラ州,あるいはジャワ島から多くの移住者が流入してきた.特に,北スマトラ州からの移住者は2000年の時点で401,861であったが,2010年には914,716へと倍増しており,リアウ州における総人口の17%を占めるに至っている.
こうした北スマトラ州からの移住者の主な年齢層は20代~30代であり,アブラヤシ栽培に関連する仕事に就いている場合が多い.また,北スマトラ州からの移住者の分布は,小規模アブラヤシ栽培が拡大しているリアウ州の北西部に集中している(図1).これは,北スマトラ州からの移住者が,企業農園での仕事に従事するだけでなく,自ら移住先の土地を購入してアブラヤシを栽培するというケースが多いことを示唆している.
さらに,人口センサスの就業状況に関する項目に着目し,2000年と2010年のデータを比較した.その結果,個人事業として農園作物(主にアブラヤシ)を栽培している北スマトラ州からの移住者に関しては,労働者を雇う割合が高まっていることが明らかとなった.つまり,北スマトラ州からの移住者の多くは,家族経営から雇用形態を伴うアブラヤシ栽培へと転換してきていると考えられる.
このように,リアウ州の主要産業となりつつある小規模アブラヤシ栽培において,北スマトラ州からの移住者が担う役割は大きく,その関わり方は短期間で多様な変化を見せている.

著者関連情報
© 2016 公益社団法人 日本地理学会
前の記事 次の記事
feedback
Top