抄録
本発表では,法務省の『在留外国人統計』(2014年12月末)での外国籍住民登録者総数の上位100位までの市区町村を対象に,外国籍住民向けのハザードマップと防災マップの作成の有無を確認し,マップが扱うハザードの種類と作成言語および地図面における多言語表記のされ方を調査した.
その結果,外国人向けのハザードマップや防災マップを作成しているのは40自治体である.マップが扱うハザードの種類は洪水が多い.39自治体が英語版を作成している.その他の言語は中国語版を作成する自治体が最も多く,次いで韓国語版,中国語版,ポルトガル語版,スペイン語版の順である.
各言語版のハザードマップは,ほとんどが日本語版マップの地図面の地名をそのまま翻訳したものである.日本語版のハザードマップの凡例や避難所名などの日本語の記載事項のみを多言語で併記したマップや,多言語表記の別紙を添付しただけのマップも多い.町丁目や番地を表記したマップは少なく,このような地図表現では,たとえ家形枠が表記されていても,彼らがマップの中から自宅を定位することは難しいだろう.
髙井(2015)では,表現の異なる3種類の地図を用いた読図実験を日系ブラジル人に行い,彼らにとって自宅を定位しやすいハザードマップの地図表現を明らかにした.コンビニエンスストアや信号機などの絵記号を表記した地図表現が効果的であることが分かった.40自治体が作成する外国籍住民向けハザードマップや防災マップのうち,たとえば信号機を記載したマップは1自治体であった.外国籍住民向けハザードマップや防災マップの地図表現が,彼らにとって分かりやすいものであるとは言い難い.
今回の調査の対象外である,在留外国人登録者総数が少ない自治体では,外国籍住民にとって分かりやすい地図表現を持つマップの事例はいくつかみられる.今後,多くの自治体において,外国籍住民に分かりやい地図表現の工夫を施したハザードマップや防災マップの作成が望まれる.