日本地理学会発表要旨集
2016年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 521
会議情報

要旨
長期的な人口変動の分析への『全国学校総覧』の利用可能性
1960~2015年の大阪府の事例
*桐村 喬
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

I 長期的かつ広域的な小地域統計
市区町村よりも詳細な空間単位で集計された小地域統計は,都市内部の状況を定量的に把握できる資料である.日本全国を対象に小地域統計が作成され始めたのは1960年代であり,同時期に進んだ計量的手法の導入によって,小地域統計を利用した因子生態研究などが盛んになった.近年はGISの登場により,大都市圏のような広域を対象としながら,市区町村の空間単位に縛られることなく分析することが容易になっており,小地域統計は多くの都市地理学研究で利用されるようになってきた.
一方,国勢調査をはじめとする1960年代までの小地域統計の大部分は,各自治体が独自に作成してきたため(桐村, 2011),大都市圏のように広域的に資料を入手し,GISなどを使って分析することは困難である.例えば高度成長期およびそれ以降の大都市圏における人口変動を,小地域単位で分析することは資料上の問題から困難であり,分析対象は必然的に1970年以降になってしまう.
そこで,この問題を解決するために,本研究では,1970年代よりも前から現代までの長期的な人口変動を分析できうる資料として『全国学校総覧』に記載された公立小学校の児童数に注目し,大阪府を事例としてその利用可能性を検討する.『全国学校総覧』は,文部科学省(旧文部省)の監修によって作成されているものであり,1955年以降,ほぼ毎年刊行され続けている.公立小学校の大部分には通学区域が設定されており,その児童数は,通学区域内のおおむね7~12歳人口に相当すると考えられる.また,多くの場合,児童は親と同居していることから,30~40歳代を中心とする親世代の人口も間接的に把握できる.
II 公立小学校児童数GISデータの作成
分析の対象とする期間は,1960年から2015年であり,5年おき12時点の『全国学校総覧』をもとに,公立小学校児童数に関するGISデータを作成する.
GISデータの作成にあたって,主として作業上の都合から,小学校の所在地は原則として不変であるものと考え,国土交通省国土政策局が提供する「国土数値情報 学校データ」(2013年度)をもとに,2013年時点に現存するものに位置情報を付与する.そして,すでに廃校になった小学校や2015年までの新設校については,個別に位置情報を付与する.一方,所在地の変化などから明らかに移転が認められる場合は,その状況を反映して位置情報を付与する.なお,院内学級や児童福祉施設等に併設された小学校・分校についてはデータ作成の対象外とし,分析対象期間中に廃校になった分校については,本校に児童数を合算する.
対象期間中の大阪府における公立小学校数は,最少が1960年の589校,最多が1990年の1,035校であり,各小学校の児童数は単純には比較できない.そこで,各小学校のボロノイ領域をその小学校の通学区域と仮定し,比較するもう一方の時点のボロノイ領域とオーバーレイし,面積按分することでよって児童数の増減を算出する.
III 児童数分布の変化と長期的な人口変動の関係
分析対象期間のうちで公立小学校数が最多となる1990年のボロノイ領域を基準として,1960年から2015年までの児童数を算出し,その増加率を求めた.児童数は,郊外化が顕著に進んだ1960年代に,それまでの既成市街地(1960年のDID)で大きく減少している.また,郊外での児童数増加は1970年代まで続いたものの,大阪府全体の児童数がピークとなった1980年以降は,減少傾向に転じている.2000年代以降は,都心部の児童数は郊外よりも相対的に増加傾向にあり,一部では絶対的な増加も認められる.
児童数の増減から読み取ることができるこのような変化は,市区町村単位でみた大阪府内の長期的な人口変動ともおおむね対応しており,『全国学校総覧』の資料を用いることで,郊外化から再都市化に至る過程の一端を,従来よりも詳細な空間単位で捉えることができているといえる.小地域単位で分析することで,DIDやニュータウン開発などとの対応関係も把握でき,毎年分の資料をGISデータとして作成すれば,時間的にもより詳細に分析できる.しかし,公立小学校児童数を,児童数についての小地域統計としてより厳密に扱うのであれば,近年導入が進む学校選択制や,国立・私立小学校への進学率の変化の影響も考慮する必要がある.また,面積按分によって見かけ上の児童数の増減が生じてしまうなど,分析手法上の問題も改善する必要がある.
参考文献
桐村 喬2011.日本の六大都市における小地域人口統計資料の収集とデータベース化―近現代都市の歴史GISの構築に向けて.人文科学とコンピュータシンポジウム論文集2011-8: 169-176.
付記
本研究はJSPS科研費15K16886の助成を受けたものである. 

著者関連情報
© 2016 公益社団法人 日本地理学会
前の記事 次の記事
feedback
Top