抄録
1.研究目的
日本各地で中心商店街活性化に向けたイベントは数多く実施されてきたが,いずれも一過性のものが多く継続されていない場合が多い.今回取り上げる「まちゼミ」は,商店主が講師となって商品に関する知識や情報を客に教えるイベントである.愛知県岡崎市を発祥とし,今では各地で実施され継続されているイベントである.まちゼミは,まちづくりのための企画として広く知られているが(松井2012),それに着目した研究は少ない.
2.研究方法
本研究では,愛知県岡崎市の中心商店街について,各種統計,現地調査による店舗構成・アンケート調査を行い,その実態を明らかにした.また,まちゼミについては,店主や商工会議所,まちゼミの会代表へのヒアリングおよび各回のパンフレットなど各種資料より,その実態を把握し,課題と今後の展望について考察した.
3.結果
中心商店街の各店舗では,店主の高齢化や後継者不足などで経営が厳しく,少人数経営のために人員を割くイベントも実施できない.また,地域とのつながりや個人経営の店舗のもつ人間的な触れ合いの魅力が感じられていないことや,まちゼミなどのイベントの認知度が低いという問題がある.そのためイオンモール岡崎など大型商業施設での購買率が高まり、中心商店街での購買率は低下した.中心商店街では飲食店化・サービス化が進み,結果的にはイオンモール岡崎と業種の棲み分けが生じている.
2003年から開始されたまちゼミは,当初は10店舗で21種類の企画が実施され,199人が受講した.現在では,78店舗で110種類の企画が実施され,1400人が受講し,活発化している.中心商店街での買回りの促進を目的として始められたが,回数を重ねるにつれ,中心商店街外の店舗の割合が高まった.また理容・美容・エステ店の割合が高まった.一方,長期にわたって参加している店舗は,中心商店街内に立地する,文房具や化粧品・薬などの日常雑貨店である.
4.考察
まちゼミは回数を重ねるごとにサービス化が生じたが,これは中心商店街で生じている店舗構成の変化に対応していると考えられる.しかし,この企画の本来の目的である中心商店街での買回りの促進という要素は薄まっている.
この企画に長期で参加している店舗は中心商店街内に立地するため,このような店舗が今後も参加し,大型商業施設ではできないプロの店主ならではの情報を提供し,客に店主との関わりを魅力に感じてもらうことが,今後のまちゼミの維持・拡大には必要であろう.一方で,サービス化など時代の変化に対応することも重要である.まちゼミは岡崎市民への認知度が低いため,これについての広報をますます行っていく必要もある.