日本地理学会発表要旨集
2016年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 925
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要旨
教員養成課程における学校防災教育
山形大学地域教育文化学部における成果と課題
*村山 良之八木 浩司
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抄録
山形大学地域教育文化学部では,2015年度前期「教員になるための学校防災の基礎」(2単位)が新設され,児童教育コース(小学校教員養成)の入学生に必修科目として設定された。2015-16年度は移行期間で選択科目として開講されている。本報告は,授業実施による成果と課題を明らかにして改善を目指すものである。
防災の科目新設  教職大学院での実績と学部学生の実態調査結果を踏まえて,授業時数の約半分を地球科学的内容として前半に置き(8コマ),後半に防災教育と防災管理を置く(6コマ)授業計画とした。担当者として現職教員,山形地方気象台からも支援していただいている。
初年度実施の成果と課題  2015年7月末,授業の最後にあたり,設問項目を設けずに受講生の感想と来年度に向けて改善すべき点を求めた。10分程度で書かれた文章において,以下のような反応が得られた。感想の総数は39で,以下の感想の例は簡略化等の改変が加えてある。  まず,授業全体に対しては,ほとんどから肯定的な評価を得ることができた。自らの意識の変化に言及したものや,開講されたことへの感謝を書き込んだものが複数ある。一例を挙げる。「思っていたものと全然違う物だった。自分が知らないことだらけだった。自分が何をすればいいかが分かった。防災は身近なものであった。」  前半に配置した地球科学的な内容に言及した者が多くあり,肯定的な感想が16あるのに対して,否定的な感想も16あった。  否定的とは,「難しかった」というものがほとんどである。なかには,「最初に難しい話が入ったことで,大切な話になるまえにこの講義をやめてしまった人がいたためもったいなく思った。」というものもある。反対に,肯定的な感想の例を1つあげる。「授業の序盤で地形や地質の講義があったことで,後半の防災の授業がよりわかりやすくなりました。地形や地質が異なるために,同じ災害が発生しても受ける被害やその規模がちがうということを理解することができました。この理解があったからこそ,学校ごとの危機管理マニュアルを作成することの大切さにも気がつくことができました。」発表者らの意図がうまく伝わったことになる。  じつは同じ受講生の感想のなかに,肯定的と否定的の両方が書き込まれた感想が9ある。すなわち否定的な感想16,肯定的な感想16のうち,いずれもそれぞれ6割弱がこれにあたる。たとえば,「地形を理解する大切さ,災害が起こるメカニズム等,防災をする意味や方法を具体的に理解することができたと思います。少し不満を言うとすれば,内容が難しすぎ(以下略)」,「地学の知識も,難しい点はあったが,地盤の固さや水の流れなどを考えて自分の住んでいる場所について考えられるようになって良かった。」といった内容である。  前半の地球科学的内容が難しいという反応は計画段階で予想されたことであり,授業内容について気象台の方々を含む担当者間で確認していた。すなわち,2014年度児童教育コース学生の実態調査結果(高校で文系84%,地理選択23%,地学選択17%)から,中学校レベルの知識を前提に授業することとしていたが,授業においてさらにかみ砕くなどの工夫が必要であることがわかった。  一方で,肯定的な感想をともなうものも多くあることは,このような授業の構成で成果があったと解釈できる。そして,一部の感想にもあるとおり,前半を学ぶ意義,前半と後半の繋がりについて,提示すべきである。前半の知識が自校化(ローカライズ)の土台でありひいては学校防災の鍵であることを,オリエンテーション段階で,ていねいに説明する必要がある。  授業の内容については,後半の充実を求めるものが複数あり,また,一方的な講義ではなく受講生の活動を組み込むことや各授業のまとめやふりかえりの時間を十分取ることなどの授業方法の改善を求めるものが6人あった。受講生が活動する場面を授業に組み込むことは,本授業計画段階で考慮していたが,初年度はほとんど実現できなかった。改善に努めたい。  最後に,外部講師(気象台予報官や小学校長)による授業に対して,肯定的に言及したものが9ある一方で,否定的なものはなかった。一例を挙げると,「気象台の方,現場の方のお話を聞けたのは非常によかったです!この外部の方のお話は絶対に続けてほしいです!!」とある。上記のとおり,外部講師ついてとくに回答を求めたものではなく,全体の感想のなかであえて述べられたことを勘案すると,専門家や現場の方々による授業がいかに受講生に強く響いたかがわかる。外部講師による授業担当は,来年度以降も継続すべく,関係者から内諾を得て手続きを進めている。
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