日本地理学会発表要旨集
2016年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: P056
会議情報

要旨
ブラジル・セルトンの水文環境と人間活動(3)
貯水池(アスーデ)・河川水の水質分布
*宮岡 邦任吉田 圭一郎山下 亜紀郎羽田 司オリンダ マルセーロ篠原 アルマンドニューンズ  フレデリコ大野 文子
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抄録
Ⅰ はじめに
ブラジル北東部(ノルデステ)の熱帯半乾燥地域(セルトン)では,1970年代後半の大規模ダムの建設による灌漑農業の発展の結果,飛躍的に環境負荷の低減,貧困農民の定住化等への効果が期待される一方で,地表面環境(土地利用形態)の劇的な変化による水文環境にも大きな影響が及んでいることが考えられる。本発表では,セルトンにおいて灌漑による土地利用変化が顕著にみられるペトロリーナを対象地域とし,現在の灌漑の状況と,貯水池(アスーデ),河川水の水質分布と灌漑による影響について報告する。
Ⅱ 灌漑の状況と土地利用
本研究対象地域であるペルナンブコ州西部に位置するペトロリーナおよびその周辺地域は,1978年のソブラディーニョダム建設以降に活発化したCODEVASFによる灌漑と農業団地の整備により,地域特有の植生であるカーチンガから畑地へと土地利用形態が大きく変化した。栽培作物については,1980年代にはトマトやメロン,トウモロコシなどが多かったが,近年では,マンゴーやブドウなど果樹の栽培が盛んに行われている。灌漑の発達に伴い,畑地の近傍では古くから利用されてきた貯水池(アスーデ)にも灌漑用水路を介してサンフランシスコ川の河川水が導水されるところが認められる。灌漑方法もセンターピボット方式から点滴灌漑などへと変化してきており,より効率的な灌漑方法が採用されてきている。
一方,カーチンガに分布するアスーデは,周辺の地表水や地下水を集めており,乾季には干上がるものもある。灌漑水路や農地は,現在も北方に向けて拡大している。
Ⅲ 水質分布からみた灌漑の影響
サンフランシスコ川から灌漑用水を介して導水されたアスーデと旧来の周辺から地表水や地下水を集水しているアスーデでは,水質濃度に大きな差が認められ,電気伝導度でみるとサンフランシスコ川から導水されたアスーデは100μS/cm以下であるのに対し,灌漑の旧来のアスーデは10mS/cm前後の値を呈しており,特にNa+とCl-濃度に大きな違いがみられた。対象地域内を流れる小河川の電気伝導度の値は,10mS/cm前後の値を示しており,この値が灌漑の影響を受けていないアスーデとほぼ同じであった。この値が,この地域における地質の影響を受けた地表付近を流れる水の水質濃度であると考えられた。
一方,農場付近の河川やアスーデでは,電気伝導度が1mS/cm前後を示すものが多数認められた。このような値を示した地点ではCa2+,K+,SO42-の濃度が高く,上流側に位置する農場が使用している灌漑水はサンフランシスコ川から導水されたものであることから,元々水質濃度の低い灌漑水に,農場において施肥や投薬による影響が現れていることが考えられた。
以上のように,灌漑によって,サンフランシスコ川から離れた地域への従来になかった水質を持つ水や,施肥,投薬の影響を受けた水が広域に供給される現状が確認された。今後,農場周辺に残るカーチンガや水域における生態系に及ぼす影響について検証する必要がある。
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© 2016 公益社団法人 日本地理学会
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