日本地理学会発表要旨集
2016年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 812
会議情報

要旨
養老山地および鈴鹿山地の東斜面における河床勾配の比較
*大上 隆史
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録
岩盤河川の河床縦断形を解析する意義
岩盤河川の形状,特に河床縦断形は,基盤岩の特性・テクトニクス・気候変動等の情報を記録している可能性がある.近年では,ストリームパワー侵食モデルを基礎とした理論的枠組みを応用することによる,岩盤河川の河床縦断形を解釈するための新たな方法論の検討が進められている.たとえば,河床勾配(S)と集水域面積(A:河川流量を近似する)に着目したS−Aプロットにもとづく手法により,流路の位置や集水域の形状に依らずに河床勾配を比較できる(たとえば,Wobus et al., 2006).Perron and Royden(2013)が導入したχプロットは,S−Aプロットを解釈する上で問題となる河床勾配の微細なノイズをうけにくいことに加え,河床縦断形を連続的に解釈できるという利点を持つ.これらの手法では河床勾配の“急峻さ”(Steepness:隆起速度および岩盤強度を反映する)を定量的に求めることが可能である.それゆえ,岩盤河川の解析は山地におけるテクトニクスを検出する手段の1つとして注目されており,事例研究の蓄積が求められる.そこで,第四紀を通じて隆起してきた養老山地と鈴鹿山地を下刻する河川群を対象として,河床縦断形の解釈を試みた.本発表では特にχプロットを作成することで得られた知見を報告する.
χプロットの作成と主流路セグメントの“急峻さ”の算出
国土地理院が公開している数値標高モデル(10 mメッシュおよび5 mメッシュ)を直交座標系(UTM53)において再サンプリング処理し,10 mグリッドデータを作成した.χプロットの作成方法はPerron and Royden(2013)に従う.“平衡状態”にある流路では,横軸にχ,縦軸に標高をとるグラフ(= χプロット)は直線となる(Perron and Royden,2013).χプロットにあらわれる直線の傾きは流路の“急峻さ”を表し,隆起速度が大きいほど,また,岩盤の侵食されやすさを示す定数が小さいほど傾きが急になる.χの計算には未知の定数m/nが必要だが,対象河川のS−Aプロットや既存研究の報告をもとに複数の値を用いて計算を試行し,m/n=0.5を採用した.また,A0は10 km2とした.χプロットから直線を抽出し,その回帰直線を求めた.
養老山地および鈴鹿山脈における河川の“急峻さ”の比較
養老山地および鈴鹿山地の東斜面を流下する河川群(それぞれ,67本および153本を抽出)を対象としてχプロットを作成した.各山地は東麓を活断層(逆断層)に画されており,断層の上盤側で流路が“急峻”になりχプロットの傾きが大きい.また,尾根に近い最上流部ではχプロットの傾きが減少するが,集水域面積が小さい(<0.1 km2)これらの区間は河川侵食よりも土石流プロセスが卓越する領域と解釈できる.そのため,断層の上盤側に位置し,集水域面積が大きい(概ね>0.1 km2)領域におけるχプロットの傾きを各河川の“急峻さ”とした.
養老山地における各河川のχプロットの傾きを図に示す.χプロットの傾きにばらつきはあるが,傾きが小さな河川を除くと,傾きは北部で大きく,中央部で減少し,南部で再び大きい,という傾向が認められた.これは養老山地の稜線の南北方向への高度変化と調和的であり,長期的な隆起速度の差を反映した岩盤河川が形成されている可能性を示唆する.
引用:Wobus et al., 2006, GSA Special Paper 398, 55-74;Perron and Royden, 2013, EPSL 38, 570-576.
著者関連情報
© 2016 公益社団法人 日本地理学会
前の記事 次の記事
feedback
Top