日本地理学会発表要旨集
2016年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 905
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要旨
夏季の東京周辺における局地的強雨発現頻度の日変化について
*高橋 日出男岡 暁子中島 虹鈴木 博人
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抄録
◆はじめに
陸上における局地的な強雨(対流性降水)の発現頻度は一般に午後に高くなり,頻度の増大や極大は山地で早く平野ではそれに遅れて現れる(たとえば齋藤・木村 1988)。佐藤ほか(2006)は午後に秩父山地で発生した降水システムが時間をおいて東京の都市域で再発達することを提示しており,またFujibe et al.(2009)は都区部の気象官署・アメダスを用いて昼から夜の始めにおける経年的な強雨頻度の増加傾向を指摘し,それぞれ都市による影響を示唆している。強雨発現頻度の日変化には,強雨をもたらすシステムの発生・発達の要因や場所・移動,都市の存在,あるいは局地循環に伴う可降水量の時間変化(佐々木・木村 2001)などの影響が想定される。しかしながら降水の局地性/広域性を考慮したうえで,局地的な強雨頻度の日変化を稠密な雨量計資料から系統的に調べた解析は乏しく,その詳細な地域性はよく分かっていない。高橋ほか(2011)では,多数の観測点における1時間降水量資料を用いて,夏季の都区部を対象に強雨の局地的な高頻度域の存在を指摘した。ただし,資料の期間が10年余であったため,強雨頻度の日変化については解析していない。本研究では,1991-2011年(1993年を除く20年間)の夏季(6-9月)を対象期間とし,降水域の空間的な拡がりを簡易的に評価して局地性を判定し,そのうえで東京を中心とした強雨発現頻度の日変化に関する地域性の提示を目的とする。
◆資料
本研究では北緯35.5-36.0度,東経139.2-140.0度の範囲を対象とし,概ね標高400m以下の198地点(気象官署・アメダス18地点,国土交通省34地点,東京都112地点,JR東日本34地点)における1時間降水量を使用した。ただし,15%以上の欠測・異常値のある場合は不使用としたため,実際には184地点を解析に用いた。また,風系の解析にあたっては自治体の大気汚染常時監視測定局の風向風速1時間値を使用した。
◆降水の局地性/広域性の判定
対象領域の1地点以上で20mm/h以上を観測した場合を強雨時(1300時間)とし,それを含む暦日を強雨日(401日)とする。高橋ほか(2011)に準じて強雨時ごとに全地点に対する5mm/h以上を観測した地点数の割合R(%)に着目し,各強雨日におけるその最大値RMを求めた。RMの5%ごとに強雨時回数の日変化を求めると,RMが65%を超えた場合に対流性降水の特徴と考えられる午後から夜半前における強雨時回数の増大が現れなくなった。このことから,RM≦65%の場合を局地的な強雨日(322日)と判断した。
◆強雨頻度日変化の地域性
局地的な強雨日を対象に各地点における時刻ごとの強雨頻度を集計し,それに対して基準化したユークリッド距離を指標とするクラスター分析(Ward法)を施した。クラスター間の距離の増大を考慮して5個のグループに地点を分類したところ,同一グループの地点は多少の例外があるものの空間的によくまとまっていた。そこで5個の地域を設定し,強雨の日変化を平均した(付図)。これによると,強雨頻度の日変化は単純な一山型ではなく,都区部などでは16時前後のほかに22時と遅い時刻にも極大が現れている。強雨頻度の高い地点を含むRegion 4(都区部西部)では,特に明瞭な二山型の日変化を示している。そこで予察的にRegion 4において15-17時(27事例)および21-23時(18事例)に発生した強雨事例を抽出し,強雨地点の最多時を基準(0-hour)とした風系のラグコンポジット図を作成した。その結果,-1-hourにおける風系は,都区部で東寄り,埼玉県南部から多摩地域では北東から北寄りの風が認められ,両者はよく類似している。しかしながら,その前後の時間における風系はかなり異なっており,降水システムの発生・発達要因や移動などに差異のあることが示唆される。18時頃が頻度の極小となる理由を含めて,今後詳細な解析が必要とされる。
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© 2016 公益社団法人 日本地理学会
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