抄録
島嶼地域の水環境を把握することは、離島という閉鎖的な地域の水環境の把握の価値に加え、そこで暮らす島民の水資源の確保という観点において重要である。さらに、島嶼の水環境の保全は景観の維持と結びつき、持続性のある観光開発においても不可欠であるといえる。だが、空間的に制限があるために島自体の許容力は乏しく、島嶼の自然環境は人間活動に対し大きく影響を受ける。五島列島は、それぞれの島が比較的近い距離に位置していながらもその土地利用などの流域環境には島ごとに差異があるという特徴を持つ。そこで、本研究では7つの島の水質特性と、流域環境と水質組成の関係について比較しながら水環境の現状を明らかにすることを試みた。 主要溶存成分分析より、水質組成は全体的にNa⁺-Cl⁻型を示した。これは、離島という四方を海に囲まれた環境にあることから、海水飛沫や降水による風送塩の影響を強く受けるためである。例外的に、玄武岩質を流域に持つ福江島及び宇久島の河川や地下水で、水質組成はCa²⁺-HCO₃⁻型を示すという結果が顕著に現れた。これは玄武岩質由来の地下水の影響によるものと考えられる。流域が急峻な地形をしている中通島の河川水では、上流と下流で水質組成が大きく変化しないことが見受けられた。これは河口までの距離が短いために滞留時間が短く、流域からの物質の寄与を受けにくいということが示唆された。