日本地理学会発表要旨集
2016年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: P049
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要旨
スリランカにおけるデング熱の実態と環境負荷のない地域対策について
*後藤 健介PANDITHARATHNE N. G. S.金子 聰
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抄録

1. はじめに
デング熱は、媒介蚊により伝播するデングウイルスによる感染症であり、現在、100以上の国々で、年間5千万人から1億人が感染していると報告されている。しかし、特効薬の開発やワクチン開発は、まだ実用段階に至らず、蚊の防圧のための少量殺虫剤噴霧においては、殺虫剤への耐性の獲得の問題や蚊以外の昆虫に対する影響を無視できず、環境に対する負荷が少なく有効な対策を検討する必要がある。本研究では、スリランカにおけるデング熱の実態を把握するとともに、同国でデング熱の対策として実施されている、地域レベルでの地域清掃プログラムについて、プログラムの広がりとその地域および周辺地域におけるデング熱罹患者数の変化を地理的かつ時系列に見ていき、評価を行うこととした。
2. スリランカにけるデング熱の実態
スリランカの2005年から2010年における県ごとのデング熱の罹患率(人口10万対)の分布図を作成した結果、コロンボ県を中心とした南西部の湿潤地域で罹患率が高くなっていることが分かった。季節的には、季節風の影響を受けて年間を通して降雨量が多くなる6月と7月、および年末の2つのピークを有している。
3. 地域清掃プログラム
ラトナプラ県では、2008年にチクングンヤの大流行があったことから、各種調査を進めた結果、同地域に分布する蚊は、デング熱も媒介するヒトスジシマカが優位であり、その蚊の幼虫を有する容器の多くは、屋外に廃棄されたプラスチック容器やココナッツの殻であったことが判明した。この結果を受けて、2010年~2012年にかけて、同地区において、県保健局が主体となり、地域住民を巻き込んだ清掃プログラムを展開した。その後、デング熱のアウトブレークが発生し、デング熱罹患率を清掃活動が普及した地域と普及しなかった地域の間で比較した結果、清掃活動が普及した地域に比べ、普及しなかった地域のデング熱の罹患率が高いことが判明したため、清掃活動地域をさらに拡大している。現在、罹患者の地理的分布についての情報を収集しており、清掃活動における環境変化がどのようにデング熱の予防に影響しているかを調査しているところである。
4. おわりに
清掃活動は、環境負荷もほとんどなく、さらに清掃により収集されたプラスチック容器は、リサイクルに回すことにより資金の回収が可能であることから、持続的可能な公衆衛生対策であると言える。本研究によりその効果が確認できれば、スリランカのみではなく世界中のデング熱感染国で実施可能な対策として提言できる。

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