抄録
これまで,ヒートアイランド現象の定量的な評価方法として,都市部から郊外の気温を差し引いた「ヒートアイランド強度(以降HII)」を用いて,主にその熱収支や立体構造の研究が数多く行われてきた.しかしながら,それらをHIIの季節および日変化にまで結びつけた議論をおこなっているものは数少ない.仮に,HIIの特徴に季節的な違いが現れた場合,各季節におけるヒートアイランドの形成メカニズムが異なっていることも考えられる.したがって,ヒートアイランドの全容を解明するうえで,その季節変化を調べることは非常に重要と言える. そこで本研究では,埼玉県熊谷市を対象に,長期的かつ多地点の定点型観測を実施した.その観測結果から,地上気温の水平分布をより詳細に把握し,熊谷市周辺で発生するヒートアイランド現象について,季節および日変化にまで踏み込んで特徴を示し,それをもたらす要因について明らかにした.解析の結果,HIIの日最大値出現時刻には,季節によって大きな違いが認められた.これは,夜間であっても時間帯によって,都市と郊外の間に気温差が生じる要因が異なることを示唆している.夜間前半において,HII日最大値が出現する頻度は季節変化が比較的小さい(30~60%).さらに,冬季においてHII日最大値が前半に出現する場合,日の入り頃における郊外の気温変化量は都市の約2倍であった.これらより,夜間前半におけるHII発達の要因は都市および郊外の冷却速度の差であると考えられ,それには都市と郊外の熱容量の差が大きく寄与しているものと推測される.一方,夜間後半のHIIは,放射冷却が効きづらい夏季において値が小さい.また冬季において,後半にHII日最大値が出現した場合は,前半と比較して2~4時頃の風速が1.0m/s程度小さく,統計的にも有意な差であった.このことから,都市が郊外と比較して放射冷却が生じ難いことが,夜間後半にHIIが大きくなる要因であると考えられる.