日本地理学会発表要旨集
2016年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: P086
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要旨
大規模災害時の帰宅判断に関わる学生の認知距離
*谷端 郷米島 万有子福田 一史中谷 友樹細井 浩一
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抄録
Ⅰ.研究背景と目的
東日本大震災の経験から、甚大な災害時にも利用可能な情報入手手段としてワンセグ放送の価値が改めて指摘されるようになった(総務省2013)。また、地上デジタル放送波で使用されていない空きのチャンネルであるホワイトスペースを活用した地域限定の放送サービス「エリア放送」を認める制度が総務省によって整備された。これらの状況を受けて、立命館大学衣笠キャンパスでは、映像学部の放送設備などを駆使して、ホワイトスペースを活用したエリア限定ワンセグ放送による防災情報共有システムの構築を進めている。
ところで、東日本大震災時、とくに首都圏では大量の帰宅困難者が出現し、帰宅困難者対策も取り沙汰されるようになった。例えば、「一斉帰宅の抑制」や「帰宅困難者等への情報提供」などについて事業者ごとの対応が求められている。事業者の中でも大学では、開講期間中に発災した場合、学内には多数の学生がキャンパスに滞在していることから、多くの帰宅困難者ならびに混乱が発生することが予想される。これに対しては、帰宅できる距離限界が経験的に20kmであることを踏まえ、学生には自宅までの距離をより正確に把握してもらい、無理な帰宅を思いとどまらせるような方策が必要となる。帰宅判断および帰宅支援に関わる情報をワンセグ放送で提供する場合、放送波を受信する携帯電話端末の画面の大きさなどデバイスに大きく依存することになる。
そこで、本研究では、デバイスの制約下でも効果的な情報を提供するべく、提供する情報内容や表現方法の異なる4つのパターンの映像コンテンツを作成し、大学生を対象とした映像視聴実験による、学生の認知距離の傾向を把握した。
Ⅱ.調査の概要と分析方法
映像は、①帰宅できる距離限界が20kmであることや幹線道路を通ることなど帰宅判断のためのポイントや、②主要目的地までの距離と歩いた場合の所要時間(時速4kmで計算)、③集団で行動することなど帰宅の際の注意事項について、8枚のスライドが順次切り替わるものである(5分程度)。その際、補助手段としてスライドの内容を文章化した音声案内も映像に組み込んだ。なお、本調査では、著しく総描を加えたルートマップ(道案内図)とサーベイマップ(正縮尺の地図)の2種と、距離情報を提供する地点について帰宅の際の起点として設定した立命館大学衣笠キャンパス正門前から10km以内の近距離の地点と起点から20kmの遠距離の地点の2種の組み合わせから4つの映像を用意した。
実験では、映像視聴およびその前後に学生の認知距離を把握するための質問紙調査を行った。調査票は、①基本的な個人属性(性別、居住地、自宅生か下宿生など)、②通学経路や車の所有状況など利用する移動手段について、③道迷いの経験や地図の利用頻度など認知距離に影響すると考えられる項目、④立命館大学生の通学パターンを加味した京都市内外の主要交通結節点(駅・停留所)12地点の経路距離、訪問頻度、⑤ワンセグ放送を活用したいと思う映像コンテンツのニーズについて問うた。
衣笠キャンパスに所属する学部生・院生を対象とし、4つのパターンの映像についてそれぞれ50人から回答が得られるよう合計200人の調査票回収を設計した。調査への協力者は、2016年1月18~20日にキャンパス内で募った。
Ⅲ.分析結果と考察
調査の結果、20kmという比較的長い距離については不正確な認知距離を有す学生が多いことが判明した。また、距離情報を提示した地点数が3地点と少ないにもかかわらず、認知距離を尋ねた12地点の多くで精度が向上し、帰宅判断の意思決定にも影響を与えていることも分かった。発表当日は、距離情報の提供前後における認知距離の精度の変化や帰宅意志の変化などについて、居住地や訪問頻度、利用する交通手段、地図の利用頻度など被験者の属性を加味して検討した結果を報告する。さらに、提供する情報内容や表現方法の異なる4つのパターンの映像について認知距離の精度向上に差異が認められるか検討した結果も報告する。
引用文献 総務省2013.「平成23年度版情報通信白書」. http://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h23/pdf/n0010000.pdf(最終閲覧日2016年1月26日)  
付記:本調査は、立命館グローバル・イノベーション研究機構(R-GIRO)特定領域型R-GIRO研究プログラム「ホワイトスペースを活用したエリア限定ワンセグ放送による防災情報共有システム」プロジェクト(代表:細井浩一)の一環として実施した。
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© 2016 公益社団法人 日本地理学会
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