日本地理学会発表要旨集
2016年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: P040
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要旨
大雪山北海平における登山道侵食 -UAVおよびSfMを用いた登山道DSMの作成-
*小林 勇介渡辺 悌二
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抄録
1. はじめに 大雪山国立公園では、主な登山道の表層は火山性の脆い物質に覆われ、さらに融雪期と登山シーズンが重なるという地域性から、登山道上の侵食が深刻な問題のひとつとなっている。そのため1980年代の終わり頃から登山道上の侵食を計測した研究が行われてきた。これらの研究では、おもにアメリカの国立公園管理の手法を倣った計測方法が採用されたが、この手法は簡便なものであるため精度に問題があった。そこで本研究では、近年、地理学の分野においても計測方法に採用されるUAVおよびSfMを用いて登山道上の侵食を計測し、侵食量や侵食形態について明らかにする。 2. 調査対象登山道 本研究では、大雪山北海岳から白雲岳方面にかけて広がる緩斜面上を南北に走る登山道を対象とした。また、西から東へ吹き抜ける卓越風のため植生はまばらである。大雪山国立公園の中でも、深さ1 m規模の大きな侵食が多発している区間である。 3. 計測方法 今回、6箇所の登山道上の侵食を計測した。ひとつの侵食の全体を計測できるよう、侵食の始点から終点の間に複数個のGCP(地上基準点)を設置し、トータルステーションで地上座標を得た。UAVにはDJI Phantom2+Visionを、空撮用カメラにはRICOH GRを用いた。また写真測量解析にはAgisoft Photoscanを、土量計測にはArc GISおよびEasy MeshMapを用いた。 4. 結果と考察 計測対象とした侵食群の中で、最も規模の大きな箇所の侵食量は274.67 m3であった。各計測箇所においては、全体の侵食量と登山道の傾斜度に明瞭な関係は見られなかった。登山道には実際の荒廃状況に応じた歩行パターンがみられた。登山道を区分すると、登山道表面を流れる表流水の水道と登山者の歩行道に分けられる。登山者が荒廃を嫌い、歩きやすい歩行道を求めた結果と考えられる。そのため、登山道の断面形による局所的な解釈では、登山道の断面形態と侵食形態にはふたつのパターンがみられた。[1]登山道が急傾斜であるとき、登山道の断面形の底面はV字形であり下方侵食が進行しているように思われる。そのため登山者は、登山道の脇にそれて植生を踏みつけ、登山道の複線化を引き起こす。[2]登山道が緩傾斜であるとき、登山道の断面形の底面は四角(箱型)に近い形状で、側方侵食が進行しているように思われる。 現在、大雪山国立公園では近自然工法に基づく登山道補修が積極的に行われている。実際の施工に際し、水道となる微地形の見極めが必要となることから、UAVおよびSfMを用いた計測は登山道管理において有効であると考えられる。本研究の実施には科学研究費補助金「持続的観光への展開を目指した協働型登山道維持管理プラットフォームの構築」(課題番号15K12451,研究代表者:渡辺悌二)を使用した。
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© 2016 公益社団法人 日本地理学会
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