主催: 公益社団法人 日本地理学会
広州のムスリム社会は、多国籍・多民族的な特質を見せている。中国各地域からの回族や新疆ムスリムや中東・アフリカ・西アジア・東南アジア諸地域からの外国ムスリムなど、国籍やエスニック集団、社会的・政治的・経済的諸方面において多種多様な背景を持った人々が、イスラム文化のもとで、かなりの程度まで融合したムスリム社会を形成している。四つのモスクに関して、使い分けがあるが、宗派の違いによるものではなく、住居や仕事場からの距離や交通の便利さなどで利用するモスクを選択したり、変えたりしている。四つのモスクは、ムスリム社会にとって、情報交換の場であり、宗教的文化的アイデンティティを確保してくれる場でもある。さらに、ビジネスのチャンスや学習する機会を与えてくれる場にもなっている。21世紀における広州ムスリム社会の多様化をもたらした要因について、グローバルな視点とナショナル・スケールにおける政治経済的政策との両方を視野に入れて考察する必要がある。9・11テロ事件や近年の中東局勢などイスラム教徒を取巻く生活環境の悪化や、中国とアフリカ諸国との貿易関係の強化などグローバルな要因に加え、WTO加盟や広州交易会の規模拡大など国内の政治的経済的要素が中東やアフリカや西アジア諸国からのムスリム入国者の増加をもたらした。また、2001年からの西部大開発や西北部の貧困などによって、回族など多くの国内ムスリムが職を求めて広州にやってきた。さらに、外国ムスリム男性と結婚して改宗した漢族女性およびその次世代の子ども達からなる「新ムスリム〈新穆(シンム)〉」は出現している。