日本地理学会発表要旨集
2016年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: P062
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要旨
日本における自治体内分権制度の展開の特徴とその背景
*前田 洋介
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抄録

I はじめに コミュニティ・レベルにおける諸問題への取り組み方,すなわちコミュニティ・ガバナンスのあり方が大きく変化しつつある.その背景として,ひとつには,コミュニティの担い手の変化や多様化が挙げられる.具体的には,これまでコミュニティの中心的な主体であった,町内会や自治会といった地縁組織の弱体化や,NPOやボランティア団体など,コミュニティの問題に取り組む地縁組織以外の主体の台頭などである.他方で,近年のコミュニティに対する政策的・政治的な関心の高まりもまた,コミュニティのあり方に影響を与えている.中でも重要な動きのひとつに,「コミュニティの制度化」(名和田2009)が挙げられる.すなわち,自治体内の部分地域としてのコミュニティに対し,政策により制度的な位置づけを付与することである(名和田2009).いわばコミュニティの政治空間化として捉えられよう.本報告では,このコミュニティの制度化の中でも特に,コミュニティに公的な意思決定や協議の機能を付与する制度である,自治体内分権について検討する. II 自治体内分権制度 自治体内分権制度には,コミュニティに公式な意思決定機能を付与するものから連絡調整機能の付与にとどまるものまで様々な形態のものが存在するが,本報告では広く,「市区町村内の部分地域において(町内会・自治会等の区域より広い範囲で),地域の住民や団体が地域課題や自治体の事業・計画・予算などについて決定・協議・提案・意見集約・連絡調整等を行うための,市区町村が設置した公式な仕組み」とする.具体的には,地域自治組織,都市内分権,近隣政府,コミュニティ協議会,まちづくり協議会といった名称で,学術研究や政策の中で呼ばれているものである. 日本における近年の自治体内分権の展開を考える際には,特に次の2点の政策動向を踏まえておく必要があるだろう.1点目は,2005年の地方自治法と合併特例法の改正により,地域自治区や合併特例区といった自治体の部分地域へ権限委譲をするための制度ができたことである.2点目は,2000年頃から各地で広がりをみせる自治基本条例制定の動きである.自治基本条例の中で最近,コミュニティのあり方に関する規定を設ける事例がみられるようになってきており(豊島2012),その延長で,自治体内分権の仕組みを導入する自治体が表れてきている. こうした中,自治体内分権の仕組みは,都市・農村問わず広くみられ,それに伴い全国的な動向についての実態報告も散見するようになっている(たとえば,地域活性化センター2011,日本都市センター2014; 美谷2007, 2008; 横須賀市都市政策研究所2012).ただし,既存の実態報告には,市部や合併市町村など一部の自治体を対象としたものが多く,全国の自治体を網羅的に検討した研究は僅少である.また,国外へ目を向けると,イギリスをはじめ英語圏の地理学では自治体内分権やコミュニティへの権限委譲をめぐる地理的問題を論じたものはあるが(たとえば,MacLeavy 2009; Raco and Flint 2001),日本ではまだ緒についた段階といえよう. そこで本報告では,全国の基礎自治体を対象としたアンケート調査及びいくつかの自治体へのインタビュー調査をもとに,全国における自治体内分権制度の展開の特徴とその背景に関して,基礎的な分析を行うことを目的とする. III データ 本報告で使用する最も主要なデータは,報告者が2015年2月~3月にかけて全国の基礎自治体(市区町村)1,741団体に対して実施したアンケート調査による.916団体から回収し,回収率は52.6 %であった.加えて,以上のデータをより精緻に分析するために,自治体内分権の仕組みを導入しているいくつかの自治体に対して行ったインタビュー調査の結果も使用する. IV 結果 アンケート調査の結果を概観すると,回答を得た自治体のうち約4割が自治体内分権の仕組み(あるいはそれに類する仕組み)を導入していることがわかった.特に人口規模が大きい自治体で導入が進んでおり,人口1万人以下の自治体では2割程度にとどまった.導入状況については,都道府県によっても差がみられた.また,導入時期をみると,77.0 %の事例が,2001年以降に導入されたものであった.さらに,導入目的に目を向けると,住民自治の促進や住民ニーズの多様化への対応を目的とする事例が多い一方で,町内会や自治会といった従来のコミュニティの活性化を意図するものも多くみられた. なお発表では,人口規模や地域条件,また,インタビュー調査の結果を踏まえたより詳細な分析結果を提示する.さらに,具体的な事例を取り上げ,自治体内分権制度とコミュニティ・ガバナンスとの関係についても検討する.

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